翌朝、伸太が出社すると、デスクの上に手紙が置かれているのを発見した。

「なんだこれ?」

 表には"退職願"と、美しく整った、繊細な文字が書かれている。

"笙子さんの字・・・"

 確かにそれは、笙子のものだった。中には

"ーーー突然で申しわけありません。

実家も出るかもかれません。

どうか探さないで、そっとしておいて下さいーーー"

と、したためられている。その簡潔な文面から、笙子の悲しい感情が、手にとるようにひしひしと伝わった。

"笙子さん、どうして?・・・"

 驚愕のあまり伸太に衝撃が走ると同時に、今まで生きてきて、感じたことのない猛烈な胸騒ぎを覚えた。おおいに焦った。

「おい、笙子さんは、今どこにいる?

誰か知らないか?」

 周りの者に尋ねると

「ああ・・・笙子さんなら、朝就業時間よりも前に来られて、ご自分のデスクを片付けて、"お世話になりました"とかなんとかいって、直ぐに帰られましたけど」

 たいしたことなど起きていないとでもいうように、淡々とした調子で、部下はまるで今月の経費の額でも報告をするかのように、伸太の質問にこたえた。

「なんでお前、そんなめちゃくちゃ重要なこと、早くいわないんだよ!

クソがっ!!」

と怒り狂って、退職願をデスクに投げつけた。伸太は直ぐさま、血相を変え会社を慌てて飛び出したのだった。