糖尿病の食事療法にカーボカウント(糖質計算)という方法があります。これは(糖尿病の一般的な)病院管理食のカロリー制限食とも違い、毎食ごとの糖質量を計算し(通常は)それに釣り合うインスリン注射の量を調整するのです。一見すると糖質制限みたいですが、摂取する糖質量が糖質制限とまったく違い、こちらは普通食と同レベルの糖質量です。しかもインスリンはケトン体の産生を抑制するのでケトン体は増えません。カーボカウントでは1日に必要とするカロリーのうち50~60%が糖質なので、例えば1日で2000kcal(カロリー)必要だとすると、そのうちの50~60%の糖質は1000~1200kcalになります。それを(糖質1g=4kcal)4で割ると、1日250g~300gの糖質量となります。この糖質量は糖質制限やケトン食よりもかなり多いです。でも通常は血糖値を下げるインスリンの量と合わせるので、この糖質量でも血糖値は一応安定します。
しかしこのカーボカウントの方法ではケトン体は増えず、普通食の場合でのケトン体の基礎レベル(0.2前後)のままになります。なぜなら、体内に余ったブドウ糖は一旦肝臓にグリコーゲンとして貯蔵され、ブドウ糖が不足してくると、ストックされたグリコーゲンが再びブドウ糖に少しづつ分解されます。普通食(カーボカウント)レベルの糖質量を摂取すると、その貯蔵量も充分になるので、グリコーゲンはなかなか枯渇しません(肝臓のグリコーゲンは、糖質を充分に摂取した場合には、枯渇するまで12~24時間程度かかるといわれてます)さらにその後はタンパク質(糖原生アミノ酸)などからの糖新生(アミノ酸→ブドウ糖)もあるので、体内のブドウ糖は24時間中不足しないのです。この状態ではケトン体の出番はなくなります。ケトン体は通常は、体内のグリコーゲンが枯渇してきた時に、脂質を原料として肝臓で作られ始めます。
このことは、たとえ夜だけ糖質制限しても(減らした分を)昼間に食べてしまえば同じ事です。1日トータルの糖質の絶対量(吸収量)が同じだからです。この場合にもやはり肝臓のグリコーゲン分解や糖新生が一晩中続き、たとえ血糖値は安定しても、ケトン体は基礎レベル(0.2前後)以上には増えません。夜だけ糖質制限しても、1日トータルの糖質量が変わらなければケトン体は増えないのです。ゆえにカーボカウントはケトン食ではありません。これは私が長年実体験してきたことでもあり、生理学的事実です。
ただし私は、カーボカウントが悪いと言っている訳ではなく、ただ単に、糖質をたくさん食べるカーボカウントと、ケトン食(糖質制限)との違いを明瞭にしただけです。また尿から糖質を出すSGLT2阻害薬とも異なります。カーボカウントは、普通食を食べながら血糖値を安定させたい場合などには向いてるのかもしれません。ただしカーボカウントではケトン体は増えません。血糖値を安定させることも大切ですが、ケトン体そのものによる抗炎症効果はカーボカウントにはありません。
一方、薬による糖質制限であるSGLT2阻害薬は、尿から糖を出し、インスリンによらず(食後血糖値でなく)主に空腹時血糖値を下げます。その時にケトン体も少し増えます。そして増えたケトン体は余剰な糖新生を抑制し、血糖値を低めに下げます。次の研究論文によると、やはりこちらのパターン(ケトン体が増えること)の方が、がんのリスクは下がるようです。慢性炎症はがんのリスクも高めるので、次の報告はケトン体の持つ抗炎症作用によるものだと私は考えます。
台湾での報告 2023年5月公開
要約:この研究では(2016年~2019年に)台湾でSGLT2阻害薬を使用した糖尿病患者と、使用しなかった糖尿病患者のがんの発生率を比較した。SGLT2阻害薬を使用しなかった患者群(325,989人)とSGLT2阻害薬を使用した患者群(325,990人)とが特定された。この研究の主な関心はがんの発生だった。SGLT2阻害薬を投与された患者は、SGLT2阻害薬を投与されなかった患者よりもがんを発症するリスクが有意に低かった。この結果により、SGLT2阻害薬を投与されている糖尿病患者では、がんのリスクが有意に低いことが実証された~引用ここまで
米国での報告 2023年6月30日公開
原題:潜在的な抗がん剤としてのSGLT2阻害薬
(SGLT2 Inhibitors as Potential Anticancer Agents)
結論要旨:Growing evidence and ongoing clinical trials suggest a potential benefit of combination therapy using an SGLT2 inhibitor with the standard chemotherapeutic regimen. Nevertheless, further experimental and clinical evidence is required to characterize the expression and role of SGLTs in different cancer types, the activity of different SGLT subtypes, and their role in tumor development and progression.
増えてきた証拠と進行中の臨床試験は、標準的な化学療法とSGLT2阻害薬の併用療法の潜在的な利点を示唆しています。しかしながら、違うタイプのがんのSGLT(糖質を取りこむ受容体)の発現や役割、違うSGLTの亜型の活動、がんの増殖や進行におけるそれらの役割を明らかにするための、さらなる試験的および臨床的証拠が必要です~引用ここまで
さらに次の内容は、昔私にケトンを教えてくれた、私の古くからのブロ友さんも紹介されていました。
米国での報告(Cell Press Immunity) 2023年7月28日公開
https://www.cell.com/immunity/fulltext/S1074-7613(23)00314-X
一部要旨:(細胞の)環境栄養の利用可能性は、T細胞の代謝や免疫形成の結果に影響を与えます。私達は、キラーT細胞(CD8⁺)の代謝や最適な免疫反応の誘導をサポートするために、ケトン体が必須の燃料であることを特定しました。ケトン体は、細菌感染や腫瘍の攻撃に対するエフェクターキラーT細胞のサイトカインの産生と細胞溶解活性を直接増加させ、その免疫反応には、ケトン体の異化(ケトリシス) が必要でした。さらに試験管や動物実験においてもエフェクターキラーT細胞は、糖質よりもケトン体を優先的に使用しました~引用ここまで
SGLT2阻害薬の特徴である「食後血糖値はほとんど下げないけど、インスリンによらず空腹時血糖値を下げ、ケトン体を少し増やす、増えたケトン体は余剰な糖新生を抑える」・・このパターンでも、がんを抑える、ある程度の効果はあると私は考えます。ただしSGLT2阻害薬は薬剤なので、副作用の問題もあり自己責任となってしまいます。この薬の利尿作用による脱水症状や、尿糖からの尿路感染症(膀胱炎、腎臓炎など)には充分な注意が必要で、私の会社の男性従業員(2型糖尿病、ジャディアンス服用)も、その点にはかなり気をつけています。あと血糖値が急激に下がり過ぎると非常に危ないです(ケトアシドーシス) 薬剤はお医者さんによる管理が一番安全で、安易な使用はよした方がいいと私は思います。やはり一番理想的なのは、糖質制限やケトン食が、あまり無理なく自然にできることでしょう。
by kotaro finish