スサノオで~す
小春「出雲♪出雲♪」
影狼「……」
『スサノオと日本の神を巡る旅』。
次の場所はいよいよ、
あの『日本史上初の王』、
オオクニヌシが鎮まる、
出雲大社。
早朝に降り立った。
あ「出雲大社…の前に…。
ここが『国譲り』の舞台…。
『稲佐の浜』ですね…。
出雲大社からも近いんですね。
車で10分もかからない」
高天原から降り立った場所。
そしてタケミカヅチとタケミナカタが争った場所…やな」
あ「改めてなんですが、
こうして神話の地に、
実際に触れることが出来るのは、
幸せなことだと思っています」
ス「せやな。
少しの知識だけを持って、
一歩前に踏み出せば、
大好きな神々のゆかりの地にも行ける。
飛行機や車や電車、船を使ってな。
昔なんか伊勢の地も、
この出雲の地も、
行きたくても、
行かれへんかってんから。
幸せな時代やで」
あ「本当にそう思います」
そして僕らは、
出雲大社へ。
長く美しい参道を歩きながら、
あ「…緊張する…」
ス「何でや?」
あ「だって、いよいよ…ですよ。
いよいよ、
あのオオクニヌシさんとの対面ですから…」
それにこの像かて、
何を格好つけとんねん、
このどスケベが」
あ「(いつもながらオオクニヌシには厳しい…笑)」
そして、
僕らは本殿の前に立つ。
(二礼四拍手一礼)
…その時だった。
?「お父さ~ん!!」
突然明るくハリのある声が響き、
遠くから
一柱の女神が、
辺り一面を自身の輝きで照らしながら
こちらに向かってくるのが分かった。
オオクニヌシの妻、
『スセリ姫』が僕らの前に、
姿を現した。
ス「おぅ!スセリ!!
久しぶりやないか!!」
スセリ姫「ひ、さ、し、ぶ、り~!!」
そう言ってスセリ姫は、
飛びつくようにスサノオに抱き付いた。
ス「いやぁ~、いい!
いつになっても、
娘に抱き付かれる感触というのは、
何ものにも代えがたい。
これを幸せと言わずして、
何を幸せという」
スセリ姫「お父さん♪お父さん♪
大好き☆」
あ「………」
…美しい。
古事記で伝えられている通りの、
少し気の強そうな目と、
お転婆な表情と仕草。
ただそれ以上に驚いたのが、
時折眩しくてまっすぐ見つめられないほどの、
その内から発せられる輝きだった。
必然的に僕の目線も、
少しだけ顔から下に落とす。
スセリ姫「………」
なぜかいきなり、
スセリ姫が僕を見て、
怪訝な表情を浮かべる。
スサノオ「どうした?」
スセリ姫「お父さん、この人(荒川祐二)誰…?」
ス「ん?
あぁ、今お父さんと一緒に、
日本の神の地を旅している、
自己愛の塊の男だよ。
ちょっと、
見た目も気持ちが悪いね」
あ「………」
スセリ姫「いや…見た目が気持ち悪いのは、
ちょっとだけだけど…」
あ「…おっ!!
さすが!!さすが娘さん!!
バカ親父と違って、
母のクシナダ姫に似て常識がある!!
もっと言え!!
もっと言ってくれ!!」
ス「お前、喜ぶハードル下がり過ぎやぞ(笑)」
スセリ姫「目線がやらしい」
あ「ガビチョーン!!」
ス「お前…『ガビチョーン』て、驚くにしてもリアクション古すぎるぞ…(笑)」
あ「だって仕方ないがな!!
あんたの娘が眩しいねんから、
視線も下に落とすやろがぃ!!
しかし、そうなると…?」
ス「お前うるさいぞ(笑)
何を無駄にテンション上げてんねん(笑)」
あ「…もうダメです…。
今は何を言ってもダメなパターンに入っているので、
そちらで進めてください……」
ス「いや、まぁそれにしても、
うちの娘が美しいというのはよくわかる」
あ「あなたはこんなんなのにね」
下手くそな絵のせいやろがぃ!!
本当の俺はもっと、
『イケメン爆発☆スサノオノミコト』じゃ!」
あ「なぁにが『イケメン爆発』じゃ!!
自己愛の塊はそっちやろがぃ!!」
ス「なんやとこら!!」
スセリ姫「プッ…」
あ&ス「ん?」
スセリ姫「アッハッハ!!
何かこの人、お父さんにそっくり!!
おもしろ~い!!」
ス「一緒にせんといてくれ。
俺はこんなにキモくないわ」
あ「僕は月読さんか、
タケミカヅチさんに似てると言われたい」
スセリ姫「フフッ、あーおもしろ(笑)
で、今更だけど、
今日はどうしたの?」
ス「いや、オオクニヌシに会いに来た。
あいつどこにおる?」
スセリ姫「まだそこら辺、
ほっつき歩いてるんじゃないかな~?
いつもいつも、
朝帰り、朝帰り、朝帰り…」
スセリ姫はそう言うと、
プクッと頬を膨らませる。
その嫉妬する姿は、
人間の少女と何ら変わらず、
かわいかった。
ス「まぁ戻ってくるまで待っとくか。
じゃあ俺も、
そこら辺うろついとくわ」
あ「ちょっ!マジッ!?
行かないで!!
スセリさんと何話せばいいの!?」
ス「適当に何か話しとけ。
お前のコミュニケーション能力が試されとる」
そうして去っていった、
スサノオに残されて、
スセリ姫と僕だけ(小春と影狼)が残される。
あ「………」
スセリ姫「………」
…黙っていても、
仕方ないので何か話さなきゃ…。
あ「スサノオさんって…、
良いお父さんなんですね」
僕のその言葉に、
スセリ姫は何の屈託もなく、
明るく答える。
スセリ姫「うん、最高なお父さん。
父としても、
神としても尊敬してる」
あ「そう…なんですか?
どこら辺が?」
スセリ姫「そうだね。
父として一番は、
私たち、家族を何より大切にしてくれるところ。
神としては、
神の歴史の重要な位置には、
必ずスサノオノミコトがいるってところかな」
あ「どういうことですか?」
スセリ姫「『伝説の三貴神』であることは、
もちろんのことだし、
イザナギさんが隠居を決めた時、
アマテラスさんの天岩戸隠れ、
もちろんヤマタノオロチ退治、
その後、
私の主人オオクニヌシが、
国造りの前に、
根の国に向かった時に、
鍛え上げてくれたこと。
大きな場面では必ずそこにスサノオノミコトの影がある」
あ「確かに…。
でもこう言っては何なんですが、
決して良いことばかりじゃありませんよね。
天岩戸開きのきっかけを作った、
高天原で暴れた話とか…」
僕のその言葉に、
スセリ姫はムッとしたように言う。
スセリ姫「それはあなたが何も知らないだけ。
お父さんの気持ちも知らないで、
知ってる風に言わないで」
あ「す、すいません…。
そんなつもりはなかったんですが…」
スセリ姫「………」
あ「あの…もしよかったら何か、
教えて頂いてもいいですか?
お父さんのこと、
スサノオさんのこと…」
スセリ姫「『何か』って?」
あ「僕もう3か月以上一緒にいるのに、
まだまだ全然スサノオさんのこと知らなくて…。
でも神様たちはみんな、
『スサノオには本当の姿がある』って言うんです。
その答えがまだハッキリ見えなくて…」
スセリ姫「……。
…じゃあ、人間は誰も知らない話を、
一つだけしてあげる」
あ「…お願いします」
スセリ姫「お父さんがね、
産まれてから大海原を統治することを、
イザナギさんに指示されたけど、
『お母さん(イザナミ)に会いたい!』と言って、
役目を放棄し続けた話は、
知ってるよね?」
あ「…はい。
泣き喚き続けて、
それに怒ったイザナギさんが、
スサノオさんを叱責して、
呆れ果てて隠居したって…」
そこまで言って、
僕は思い出した。
伊弉諾神宮で、
イザナギさんと会って話した時のこと。
その時にイザナギさんが言っていた、
『自分が叱責した時に、
スサノオに言い返された言葉によって、
自分は隠居を決意した』という、
趣旨の話。
※その時の話はこちら。
スセリ姫「神々の中では有名な話…。
あの時イザナギさんが、
隠居を決めたのはね、
お父さん、スサノオの…」
スセリ姫「『愛する者すら幸せに出来ない者が、どうして神を名乗れるのか!!』
という言葉だったの」
スセリ姫のその言葉に、
衝撃が走った。
語り継がれている物語とは別の、
知られざる真実がそこにあった。
スセリ姫「その言葉によって、
それまで自分自身の行いが正しいと信じて疑わなかった、
イザナギさんが、
初めて自分の過ちを認めた。
愛する妻イザナミさんにしてしまった仕打ちを嘆き悔い、
そして、
『自分はもう神でいてはいけない』と悟り、
表舞台から去ることを決意した」
あ「………」
言葉が無かった。
あまりの真実の衝撃に、
まだ頭が整理しきれない。
スセリ姫「お父さんは、いつも言ってる。
『神であろうとなかろうと、
そんなことは関係ない。
大切なことは、
人間であろうと、
神であろうと、
目の前の大切なものを、
いかに大切にしていくか、
それだけなんだ』って。
その思いだけは、
昔も今も、ずっとぶれない。
だから私たちのことも、
ずっとずっと大切にしてくれるし、
天つ神であっても、
国つ神であっても、
人間であっても、
誰であっても関係なく、
いつでも誰にでも、
優しくて温かい」
あ「………」
スセリ姫「……。
そんなお父さんが、
私は大好き」
あ「…ありがとう…ございます…」
スセリ姫「あ、オオクニヌシさんも
戻ってくるみたい。
お父さんも戻ってくるだろうから、
話はここまでね」
出雲大社に日が射して、
知られざる一部の真実の解明と、
これから始まるオオクニヌシさんとの対面によって、
新たな未来が拓かれていく。
いよいよ、
『日本史上初の王』
オオクニヌシが現れる。
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