(これは…?)
「彼はますます眉を寄せた。
書かれているのは たったの一行。
しかも、なんのことだかさっぱりわからない。
その〝遺書〟には、こうあった。」
『また逢いたいです。わたしも』
「亡骸となった毒蛇の目に光る涙に、
気づいた者は、いなかった。」
「物語は、これにておしまい。どうしたんだよみんな黙って?
ちょっとしんみりさせすぎちまったかな。
でもま、たまには、こんなガラにもねぇ話もいいだろう?
え? なんだって俺様がこんな話を知っているのか?
そりゃあやっぱり、企業秘密だな。
それとも、即興でハッピーエンドバージョンを作ったら、
も一度聴くかい?」
悲しいお話に浸っていたお客はみんな、
そんなものを聴きたくはありませんので、
いそいで帰っていってしまいました。
「またひとこと多かったな……言わなきゃよかった。
反省反省……おや、きみはまだいたのかい?
付き合いがいいね!」
ひとりだけ、まだ残っていた少女がいました。
青年を囲んで集まっていた人たちの中で、
最後まで、いちばん遠くで、祈るように聴いていた少女でした。
「……たいです」
「え?」
うつむきがちな上に、遠い上に、とてもちいさな声だったので、
青年はよく聞き取れませんでした。
少女のそばへ寄ってみると、
青年は、彼女が泣いていることに気付きました。
「幸せな結末が、聴きたいです」
少女は今度は顔を上げていいました。
瞳に涙をいっぱい浮かべて。
「逢いたかった……ヒタ」
とある国の、とある街。
賑やかに人が行き交う道で、
青年はその遠慮がちな少女の瞳を、初めて見たのです。
あの言葉が、自分を取り戻させてくれました。
ふたりをつつむ、ひだまりの中で。
青年は、いつかのように、少女の名前を呼びました。
「若葉」 と。