後輩が寿退社することになり、朝礼で発表された瞬間、フロアは拍手に包まれました。

 

「おめでとう!」

「新婚生活、楽しみだね」

「お幸せに!」

 

私も笑顔で拍手をしました。

 

その日の午後、私は会社のトイレに入りました。

個室に入って少しすると、後輩と同僚が入ってきました。

後輩二人は、私が中にいることに気づいていなかったのだと思います。

 

「でも、仕事を辞めるの不安じゃない?」こう聞かれた後輩は、笑いながらこう答えました。

 

「少しは不安だけど、ユイさんみたいにはなりたくないんだよね

 

一瞬、自分の名前を聞き間違えたのかと思いました。

けれど、その次の言葉は、はっきり聞こえました。

 

「ずっと独身で仕事だけって、負け犬みたいじゃない?」

 

「確かに~」(笑)

 二人の笑い声が、狭いトイレに響きました。

 

 

私は物音を立てないように、
個室の中で息を止めていました。

怒りより先に出てきたのは、
恥ずかしさでした。ショボーン

 

私の人生は、後輩から見たら「なりたくない未来」だった。ガーン

 

毎朝きちんと出勤して、
頼まれた仕事を断らず、
後輩のミスまでフォローしてきた。

誰にも迷惑をかけず、
自分の生活費は自分で払い、
将来のために少しずつ貯金もしてきた。

 

それでも結婚していないというだけで、
私の人生には「不合格」の判が押される。

そんな気がしました。

 

二人が出ていったあとも、
私はしばらく呆然として個室から出られませんでした。

鏡の前に立つのが怖かったのです。

そこに映る自分が、本当に「負け犬」に見えてしまいそうでした。

 

帰りの電車で、
窓に映った自分を見ながら考えました。

私は、どこで人生を間違えたのだろう。

 

20代は仕事を覚えることに必死でした。

30代になれば、自然に結婚するものだと思っていました。

でも気づけば、後輩たちは次々と結婚し、出産し、家を買っていく。

私だけが、会社と家の間を同じ速度で往復している。

 

まるで人生には決められた時刻表があって、

20代で恋愛。
30代で結婚。
その次に出産とマイホーム。

 

その電車に乗れなかった私は、
誰もいないホームに取り残されたようでした。

 

けれど、本当に苦しかったのは、
独身であることだけではありません。

 

家賃も、生活費も、老後のお金も、
すべて自分で背負わなければならないこと。

病気で働けなくなったら、
誰が私の暮らしを守るのだろう。

このまま何歳まで、
今の働き方を続けられるのだろう。

そんな不安があるから、
後輩の言葉を笑い飛ばせなかったのです。

 

もし自分の未来に自信があれば、

「そう見える人もいるよね」と流せたのかもしれません。

 

でも当時の私は、自分の人生の価値を、他人のものさしで測っていました。

 

結婚していれば合格。
家を持っていれば安心。
誰かに選ばれていれば価値がある。

反対に、独身で働き続ける私は不合格。

 

そんな世間の採点表を、自分でも握りしめていたのです。

 

だから、その後夢中で自分の生き方を探して

婚活パーティーに行ってみたり、

婚活イベントにも参加したりしてみました。

 

でも全然ダメ(-_-;)💦

だって望んでもいない結婚に未来ビジョンもないまま参加した私は

完全に浮いた存在(-_-;)あせる

いつの間にか、話の輪の外へ。

隠れるように、会場にいるのが精一杯でした。

 

なんだか、本当に「負け犬」になったような気がして

どんどん自信を無くしていました。

 

そこには、「結婚すれば安心できる」

とも、「もっと稼げば自由になれる」

とも書かれていませんでした。

 

教えてもらったのは、
自分がどんな人生を送りたいのかを先に決め、
その人生を支えられるようにお金を整えることでした。

 

私はずっと、
お金は将来の不安を埋めるために
貯めるものだと思っていました。

 

でも、お金は人生の防波堤であると同時に、
これからの選択肢を育てる土台にもなる。

 

今の会社で働き続けることも選べる。

少し休むことも選べる。

住む場所を変えることも、
新しいことを始めることも選べる。

 

大切なのは、世間の時刻表どおりの電車に乗ることではありませんでした。

自分が行きたい場所を知り、そこへ向かう切符を自分で持つことだったのです。

 

それから私は、結婚した人と自分を比べるのをやめました。

正確には、比べて落ち込む日があっても、
そこに自分の人生を預けなくなりました。

 

結婚は勝ちではない。

独身も負けではない。

どちらも、その人が選ぶ生き方の一つです。

 

あの日、トイレで聞いた言葉をなかったことにはできません。

今思い出しても、胸の奥が少し痛みます。

 

けれど、あの言葉があったから、私は初めて自分に問いかけました。

 

「世間からどう見えるかではなく、私はこれから、どんな人生を生きたいのだろう」

 

私が欲しかったのは、誰かに勝ったと証明できる人生ではありませんでした。

これからの人生を、お金の都合で諦めなくて済むこと。

 

働き方も、暮らし方も、自分の意思で選べる余白を持つこと。

そして朝起きたとき、これからの自分を少し楽しみにできることでした。

 

 

人生は、誰かと同じ電車に間に合うための競争ではありません。

今いる場所からでも、自分の行き先は決め直せます。

 

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