現在の経済対策が、長期的に為替相場に与える影響は?? 米ドルの下落圧力は?? | YuiPa公式ブログ

現在の経済対策が、長期的に為替相場に与える影響は?? 米ドルの下落圧力は??

5月28日、日本は31兆円規模の財政支出を伴う本年度第2次補正予算案を閣議決定。

 

米国初め海外でも新型コロナウイルス問題で発生した経済危機に対して大規模な財政支出による経済対策で対応している。

 

米ドルが日本や欧州と金利差の割には高止まっている中、FRBによる金融緩和策やトランプ政権による大規模な財政刺激策は、最終的には米ドルの下落圧力を強めるだろう。

USD/JPYが100円を割り込む下落になると考えている。それは米大統領の選挙前になるのか、選挙後になるのか。

 

これほどの周辺環境の悪化にもかかわらず、現在までのところ米ドルは驚くほどの底堅さを維持しているが、ここでは現在起こっている世界経済と経済対策における地殻変動の動きが、長期的に為替相場にどのような影響を及ぼすかを見てみる。

 

 

<今の経済対策>

米国や豪州、新西蘭に続き、日本政府も合計すると経済規模比10%を超えるような財政支出策の現状に対し、驚きを持って眺めている人も多い。

このような大胆な経済対策はコロナ危機で突然出てきたものではないことを認識することが重要その変化は昨年から始まっていた

 

財政政策と金融政策の関係は長らく議論されてきた問題で、2019年8月、FRBの元副議長スタンレー・フィッシャー氏を共同執筆者の1人とするリサーチ・ペーパーが発表され、「次の景気減速局面では財政政策をフル活用すべきで、ゼロ金利の罠に陥っている金融政策も財政ファイナンスでそれに協力できる」 といったことが提唱された。

 

また2019年オリビエ・ブランシャール氏が日本への政策提言の中で、名目金利が名目成長率を恒常的に下回る経済においては、日本に限らず、財政政策による景気刺激が有効であるとの見解を示した。

 

1980年代のレーガン、サッチャー両氏による新自由主義革命以降、経済対策は金融政策が主体とされ、ゼロ金利制約に直面した場合でも、中央銀行は量的緩和やマイナス金利政策などの非伝統的政策で金融緩和を拡大できると考えられていた。

 

次第にその弊害が目立つようになり、昨年10月ロウRBA総裁を議長とする国際決済銀行が非伝統的金融政策に関する答申をまとめ、それらの政策は市場対策としては有効ながらも副作用も大きいとの考えを示すに至った。

こうした流れで、上記のように財政政策を有効活用するとの考えが強まることになった。

 

 

財政政策が経済対策の主体となると、為替への影響はどうなるのか

 

国際金融の考え方であるマンデル・フレミングの定理【https://bit.ly/2XJ6s2l 】では、財政拡張政策は金利上昇を招き、通貨高になることでその有効性が減退するその反面、金融緩和策は通貨安にもつながり、その有効性は高いと論じている。

 

しかし、今の内需不足の状況下では、金融緩和とのポリシーミックス【https://bit.ly/3exjgzA 】で金利上昇は抑制されるため、財政拡張策が持続的な通貨高につながることは少ない。むしろ、財政による内需拡大で輸入が増え、経常収支が悪化しやすくなる分、中期的には通貨安をもたらすことが多い。

 

新興国のように格付け不安を抱える国は、格下げリスクも通貨安要因となる。直近でいえば、原油下落に伴い産油国の格下げがありました。クウエート、メキシコ、南アフリカ、ナイジェリア、コロンビア、エクアドル、アンゴラ、スリナム、オマーン、トリニダード・トバゴ。

日本など国際関係を重視する国は財政拡張策を取ることで、金融緩和策などで円売り介入などの通貨政策に対する海外からの理解を得やすくなり、通貨安の影響が生じる。

しかし、コロナ危機とロックダウン政策で内需縮小が生じている中では、財政支出の増加がそのまま内需拡大に直結する訳ではない。そして財政拡張策がインフレに直結する訳でもない。

 

 

 

<なぜドル安にならないのか>

 

今年4月上旬にIMF発表の世界経済見通しによると、各国の内需縮小と経済対策を考慮した上で、今年の米経常赤字は昨年の経済規模比2.3%から今年は2.6%へと小幅に拡大する(前年比▲0.3%)に過ぎないとの見方が示されていた。

 

日本の経常黒字は3.6%から1.7%への縮小(前年比▲1.9 %)が見込まれており、今回の第2次補正の影響を加味すると、そこからもう少し黒字が減る可能性もある。これは黒字が好感視され、円高要因の緩和と見るべきだ。つまり、日米の経済政策は経常収支の変化を通じて、ドル安/円高を緩和させる方向に作用する。

 

一方、経済規模比3%を超える赤字拡大が見込まれているのが英国、加奈陀、新西蘭であり、特に英国と新西蘭は中央銀行が財政ファイナス(紙幣を多く刷りまくる)を始めている。早い段階で通貨安の圧力が強まるとしたら、GBPNZDではないかと考えられる。

 

ユーロ圏はECBが金融緩和に法的な制約(EU条約)や財政刺激があるとはいえ、小規模であることを考慮すると、経済規模比3%を超える経常黒字から生じる通貨高圧力が、どこかで表面化してくる。

しかし、現状ではUSD/JPYが底堅さを維持していることに加え、EUR/USDは戻しつつも低空飛行が続いている。長期的な観点から想定される米ドル安(その裏方での円高ユーロ高)の動きが、まだ本格化していないことは事実である。

 

コロナ危機の勃発により特殊な需給要因が米ドルを下支えしてきた。

1)3月には世界的なドル不足問題が生じた

2)世界的な株価下落が、時価総額の大きい米株市場のリバランス活動を発生させ、

年金など長期投資家によるマネーフローを促した                                          

3)4月以降、米企業などによるリパトリエーションが生じている

4)サウジアラビアのように外貨準備が減少した国の通貨操作でドル買いが生じた

 

政策的な米ドル安圧力が表面化してくるには、こうした需給要因の剥落を待つ必要がある。

ただし米国の対策が大胆であり、「トランプ政権の経済政策で米ドル安」 との見方が市場で共有される局面では、持続的な米ドル安トレンドが発生することも考えられるのではないか。

 

来月以降、各国が政策金利を上げてくるようなことがあると、最も注意を払いたいところである。

 

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