臨床心理士&公認心理師の
中村友一(なかむらゆういち)です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今日は、カウンセリングの現場でとてもよく見かける、あるパターンについて書いてみようと思います。
「何かを変えたい」のに、なぜか動けない
「変わりたい」
「前に進みたい」
「何とかしなきゃ」
……でも、気づけばまた同じところにいる。
そういう経験、ありませんか?
カウンセリングの中でも、このパターンに出会うことがとても多いです。
「次にどんな行動をしましょうか?」と聞くと、
「頑張って自分を見つめます」
「やるべきことを考えてやってみます」
こういう答えが返ってくることがあります。
気持ちはすごく伝わる。
でも、これだとなかなか動けません。
なぜかというと、「具体的な行動」になっていないからです。
頭の中でぐるぐるしてしまうのは、脳が持つ癖
「何で自分はこんなに考えてばかりで動けないんだろう」
実は、これには心理学的な理由があります。
頭の中でぐるぐると考え続けてしまう状態、専門的には「反芻思考(はんすうしこう)」と呼びます。
牛が食べた草を何度も口に戻してかみ続ける「反芻(はんすう)」からきた言葉です。
反芻思考は、自分の気持ちや状況の原因・意味・結果について、ぐるぐるぐるぐる考え続けてしまう思考のくせのこと。
研究でも、これがうつのなりやすさと強く関係していることがわかっています。
2023年にオハイオ州立大学などが行った脳のMRI研究では、反芻思考が強い人ほど脳の特定の部位のつながりが変化していることが確認されています。
つまり、「動けない」のは気合いが足りないのではなく、脳の状態に理由があることが多いのです。
「考えること」と「行動すること」は別の話
ここが、すごく大事なポイントです。
「気持ちが整ってから動こう」
「もっと考えてから決めよう」
……これ、一見まともに聞こえますよね。
でも実は、気持ちと行動をごちゃ混ぜにしてしまっている状態なのです。
「考えること・感じること」と「行動すること」は、本来、別々のものです。
「不安だ」という気持ちがあっても、行動はできます。
「やる気が出ない」という感覚があっても、行動はできます。
心理療法の世界に「ACT(アクト)」という治療法があります。
日本語では「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」。
その中で大切にされているのが、「思考はカーステレオ、自分は運転手」というイメージです。
カーステレオからうるさい音楽が流れていても、車の運転はできますよね。
同じように、頭の中でどんなにネガティブな声が流れていても、行動は自分で選ぶことができる——そういう考え方です。
まずは「事実」と「自分の気持ちや考え」を分けることを、意識してみましょう。
たとえばこんなふうに。
| 混ざっている状態 | 分けた状態 |
|---|---|
「自分はダメだからできない」 | 「今『ダメだ』という考えが浮かんでいる。でも今日の夜7時にメールを1通書く」 |
「気持ちが乗らないからやれない」 | 「気持ちが乗らない、という感覚がある。それとは別に、今日できることはある」 |
「ハードル、下げすぎ?」くらいでちょうどいい
行動できない理由のひとつに、タスクが大きすぎることがあります。
・「資格の勉強をする」
・「部屋を片付ける」
・「たまっている仕事を終わらせる」
このようなタスクを設定しても、なかなかうまくいきません。
大きな塊のタスクは、その日のうちに終わらないことも多い。
すると「また今日もできなかった」という感覚がたまっていって、どんどんやる気がしぼんでいきます。
大事なのは、「今日のうちに、絶対できる」ところまで細かく分けること。
・「資格の勉強をする」→「今日は参考書の目次だけ読む(10分)」
・「部屋を片付ける」→「今日は机の上のコップを台所に持っていく」
「そんな小さいことで意味あるの?」と思うかもしれません。
でも、あるんです。ちゃんと。
心理学の研究でも、進捗を毎日少しずつ積み上げていくことが、長期的なモチベーションの維持に強くかかわっていることが示されています。
「今日も少し進んだ」という感覚が、脳の報酬回路に働きかけて、次の行動を引き出すのです。
「こんなちっぽけなこと…」と思ったら、読んでほしい
小さな一歩を踏んだあと、こんな声が聞こえてきませんか?
「こんなことで喜んでいていいの?」
「こんなちっぽけなことで、全然足りない」
この声、すごく意地悪ですよね。
でも多くの人が、この声に負けてしまいます。
Kristin Neff(クリスティン・ネフ)というアメリカの心理学者が長年研究してきた「セルフ・コンパッション(自分への思いやり)」という概念があります。
そこでは、自分に思いやりを持てる人ほど、不安が少なく、先延ばしも少なく、失敗した日でも立ち直りが早いことが示されています。
自分を責めることは、モチベーションを上げません。
むしろ逆効果なんです。
どんなにささやかな成長であっても、成長は成長です。
「コップを台所に持っていけた」
それでいい。
まず、それを自分で認めてあげることが次の一歩につながります。
一歩進めば、見える景色が変わる
「そんな小さいことで景色なんて変わらないよ」と思いますか?
でも、これが本当に変わるんです。
「やってみたら、思ったより怖くなかった」
「小さくやってみたら、少しだけ気持ちが軽くなった」
「一歩動いたら、次の景色が見えてきた」
行動してみると、考えているだけでは絶対に得られない新しい情報が入ってきます。
その情報が、また次の一歩を踏む気持ちを生み出してくれます。
「気持ちが整ってから動く」のではなく、「動くことで気持ちが動き出す」。
これが、行動活性化療法(Behavioral Activation)と呼ばれる、うつや停滞状態への心理的アプローチの核心にある考え方でもあります。
最後に
こういうことを書いている私自身も、心が折れそうになることがあります。
歯を食いしばることも、握り締めたこぶしの中で爪が突き刺さるような感覚になることも、正直あります。
それでも、かろうじて進んでいます。
だから、もし今「もう無理かも」と思っている方がいたとしても、どうか自分自身をあきらめないでください。
今日できる一番小さな行動は何ですか?
「メールを開く」「靴を履く」「椅子に座る」——それだけでもいい。
その小さな小さな一歩を、一緒に踏んでいきましょう。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
何か感じたこと、試してみたいこと、あるいは「これが難しかった」というご感想でも、コメントやメッセージで教えてもらえたら嬉しいです。
*本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医療・心理的アドバイスの代わりとなるものではありません。
深刻なお悩みがある場合は、専門家にご相談ください。
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