六吟歌仙「灯ともし頃の巻」

里の秋灯ともし頃を鐘わたる      準(秋)
 塾へ行く子に虫の音しきり      眞(秋)
太極拳静かに月を引き寄せて      丹(秋・月)
 のらりくらりといつかの記憶     なな(雑)
バイク駆り風と自由をとりもどす    順(雑)
 夢と不安の赤本の夏         葉(夏)
潮騒に遠き日おもふ海猫か       眞(夏)
 波間にひかり一夜は千夜       準(恋)
針千本万本飲みて逢いにゆく      なな(恋)
 よく知らぬまま詐欺の片棒      丹(雑)  
書いてみたシャープひとつが異世界へ  葉(雑)
 浮かびて消えし言の葉いづこ     順(雑)
冬の月酒の糟売り訪ぬ         準(冬・月)
 木の葉舞ひ散る陽のまぶしさよ    眞(冬)
朗らかにライムライトの際を去り    丹(雑)
 耳元へ手回しオルゴール       なな(雑)
ばくてんの大道芸に花吹雪       順(春・花)
 演歌の背中(せな)に恋猫の声    葉(春)
たんぽぽの綿毛が誘ふウォーキング   眞(春)
 道連れ出来て遥か彼方へ       準(雑)
旅ひとり余生は水に溶け易し      なな(雑)
 祖母伝来のカルメラレシピ      丹(雑)
時越えて涼風渡るふるさとへ      葉(夏)  
 テントを張れば瀬音高まり      順(夏)
せめぎあふ期待心配コンサート     準(雑)
 思ひ深まる紅茶の琥珀        眞(恋)
ノッティングヒルの歩道で再会し    丹(恋)
 都合よく脚色されし日々       なな(雑)
月白くマリアの像の頬照らす      眞(秋・月)
 画家の視線に林檎のヌード      葉(秋)
マリンバの楽に団栗落ちて跳ね     順(秋)
 マイナスゼットエックス2乗     準(雑)
人波に埋もれてゆきし円周率      なな(雑)
 金平糖は小皿に踊り         丹(雑)
しんとして言葉佇む花明かり      葉(春・花)
 黄の蝶生まれ野をかがやかす     順(春)

  令和五年九月一日〜十月十八日