四吟歌仙「走馬灯の巻」

どの道も無伴奏なり走馬灯　　　　　なな（夏）
   右に折れれば砂丘炎昼　　　　　　準（夏）
物陰に猫の四五匹じやれあつて　　丹（雑）
飛行機雲の銀のひとすじ　　　　順（雑）
皓月や英国紳士のシルエット準（秋・月）
   年追ふごとに秋ひりひりと　　　　なな（秋）
ショパン忌のトレモロの指冷えそめて順（秋）
   革命成就愛は戻らず　　　　　　　丹（恋）
過ぎし日へ堕ちゆく刻の甘き舌   なな（恋）
   眠れぬ夜のブラック珈琲丹（雑）
じっくりと腰据えて読むクリスティー　準（雑）
バルコニーには潮騒つのり　　　　　順（雑）
ゲルニカの黒極まりて冬の月　　　　　なな（冬・月）
   樹氷のあはひを葬列がゆく準（冬）
戦ひの少年喇叭手晴れやかに　　　　丹（雑）
   世界すばらしと歌ふサッチモ　　　順（雑）
花は咲き青空鳥啼き子ら遊び　　　　準（春・花）
   春の光を眼裏（まなうら）に飼ふ　　なな（春）
岬めぐる移動スーパー花菜風　　　　　  順（春）
   象のおやつにナツメヤシの実　　　　  丹（雑）
雨やさし花子太郎の糸電話　順（雑）
　今日といふ日の呼吸のしかた　　   なな（雑）
嬉遊曲弓不揃ひも気にかけず　　　丹（雑）
クライマックス土用波来る　準（夏）
虹立ちてかもめ食堂休業中　順（夏）
   未生の恋の我にあらむや　なな（恋）
エレベーター腕取り縋る二秒間　　    準（恋）
   我が熱気球成層圏に　　　　丹（雑）
降り月失ひゆくもの昨日今日準（秋.月）
   肺に拡がる秋の広さよ　　　　　　　なな（秋）

夕闇に銀木犀が灯を点し　　　　　　　丹（秋）

水音たかく屋号持つ家　　　　　　　順（雑）

曾祖父は北前船で財を成し　　　　　　丹（雑）

形見に残る暗函カメラ　　　　　　　準（雑）

花雲に埋もれ無音の人となる　　　　　なな（春・はな）

瀬々奏でては春の滝為す　　　　　　順（春）

　令和四年　六月十日〜六月二十四日　　Ｅメールにて