誰かのヒーローになりたい。

大事な人を守れる力を持っていて、周りに羨ましがられて憧れるヒーローに。

そんなことが無理なのはわかっているんだ。
ヒーローになれるのは極一部。
そんな極一部に憧れた僕はただのモブの1人に過ぎない。

それに、こんな自分がヒーローな世界じゃ、優しいヒロインは現れないし、もし現れてくれたとしてもすぐに奪われてしまう。怖い人たちに奪われて、すべてを捨ててまで助けに行くような勇気は僕にはない。


今の僕に守れるものはない。
守ろうと思う相手もいない。


守りたかった大事な子がいた。

ずっと前の事だ。ずっと大切だった。今でも、大切なんだと思う。
一日だって忘れたことは無い。

彼女の我儘なら何でも聞いてあげられる自信があった。
彼女が言うことは何でも受け入れてあげられる自信があった。
彼女の側で彼女を理解してあげられるのは自分だと思っていた。

有る意味の自惚れだったが、そこまで思わせるほどに彼女は魅力的な存在だった。

彼女以上の美人はいない。
彼女以上に格好いい人もいない。
彼女以上に考えて努力して結果を出す人もいない。
彼女以上に支えて理解したいと思えた人はいない。
彼女以上に優しくして快適な生活を送って欲しいと思えた人はいない。
彼女以上に傷付けて自分のものにしてしまいたかった人はいない。
彼女以上に私のことを知って欲しい人もいない。
彼女以上に大事にして欲しい人もいない。


彼女は私の全てだった。


彼女は生きる理由だった。
彼女が死を望んだから殺す理由だった。
彼女が死ぬ意味だった。

命ですら彼女のものだった。

そんな彼女も別れを告げていなくなってしまった。


生きる理由をなくした。
死ぬ理由もなくした。
何かをする理由の大半をなくした。
そこに彼女がいなければ、僕は何も出来ないただの〝生物〟でしかなかった。


守れなかったのだろう。

嫌いだと言われて、怖いと言われて。
守りたかった大事な相手を傷つけ怯えさせたのは自分自身だった。

愛せていなかった。
すべてを捧げていたつもりだったのに。
そんなものは愛じゃなかったみたいだ。


そこからひとりで暫く過ごした。


彼女とよく似た子に出会った。
違う部分も多くて可愛い子だ。

単純にそばにいたかった。だから大事にして付き合った。

「相思相愛になれると思ってたの?」
そう言われて別れた。

愛しているがわからなくなった。
信じるのが怖くなった。


落ち込んでた時に出会った子は優しくしてくれた。
その優しさや想われてる事が嬉しかった。

暫くして、「何か違うね」って話になって別れた。

好きが何なのかが分からなくなった。


何かの身代わりの、寂しさを受け入れてくれる子が欲しくなった。
その寂しさの本質に目を向けることは無かった。

探して見つけた。
でもこれは違うと思って手を離した。

最後には裏切り者と言われた。


欲しいスペックをすべて持っているような理想的な人に出会った。
中身を見てみたら全く違うことだった。

それでも外見のスペックが良かったのも事実だから受け入れた。
受け入れたら依存された。

使うだけ使われた。我慢して、彼女のためと思っていた感情が限界になって別れた。

嘘つきの裏切り者、そう言われた。


疲れた。


みんな、最初の大事な彼女になど勝てるわけもなく、ただそんな状況で、それを忘れられずに依存した状態で、誰かを大事になんて出来るわけがなかった。
だから、自分だって大事にされるわけもなかった。

結局何もかも失ってしまった。

元から彼女がいない時点で、もうその時から、何も無い状態だったのかもしれない。

守れなかった唯一のお姫様。

なくしてしまったお姫様。

仕方ないのかもしれない。


もう何かを守るためには臆病になってしまった。

始まらなければ終わらない、そんな永遠が欲しいのに、永遠なんてないと知ってしまった。

どこかで崩れて壊れるのが嫌なのに、崩れて壊れて傷つくと知って、何もするのが嫌になった。

また失うのは怖いから。



ヒーローになんてなれない。

守りたくたって守れない。
大事に思っている人たちすら、僕はいつかきっと見殺しにしてしまう。
優しくできずに傷つけてしまう。

まるで一番最初に手に入れた大事なお姫様を失ったように。

そんなお姫様が頭から離れないから、もうきっと彼女以上を見つけられないから。

誰かのヒーローにも彼女のヒーローにもなれない。



ぼくは憧れるしかできずに画面に移り込むだけのモブキャラ。