レプリカと模造、歴史保存のディレンマ

 大学時代の博物館学で習った面白い事が一つある。博物館で目にする「レプリカ」という言葉。私の通った大学の博物館学の教授青木豊先生はこのレプリカに対して非常にこだわりをお持ちであった。例えば、江戸時代火縄式鉄炮二本松住国友〇〇作「レプリカ」とあった場合その博物館は本物の二本松住国友〇〇作の火縄銃を保管庫で保有しているべきである。としていた。そうでない場合レプリカを製造し、展示することは博物館の大義から離れるという事だ。併しこの場合のレプリカは型を取ったまさにレプリケイトしたものをそう呼ぶべきで、模造したものは模造品と呼ぶべきとおっしゃっていたと思う。

 このレプリカに関するこだわりは非常に重要な問題である。例えば、原物の火縄銃の経年劣化などを確認する場合にはもちろん磨かれていない、手の施されていない肌目などを知る物理的歴史の研究には大変大切となる。一方、火縄銃の場合武器としての価値も存在する。江戸時代に磨き上げられた火縄銃がどのような状態で使用されていたかを知る必要もある。この場合模造品が本来の役目を果たすだろう。しかし、歴史的史料をなおざりにしておけば、たちまち朽ちて鉄屑と化してしまう事も気を付けたい。歴史的武器の保存は難しいわけである。

 

第一試作品の問題点を改善するため、幾つかの修正点

イ、本来の筒の形状を再検証 火縄銃復元日記#4
ロ、筒の色合いの研究 火縄銃復元日記#4
ハ、仙台筒の銃口径の大きさの検証 火縄銃復元日記#5
ニ、目当ての位置関係の研究 ←今ここ
ホ、目当ての形状の研究

 

ニ、目当ての位置関係の研究

 火縄銃における目当てとは現在の銃火器における照準器の事だ。英語でいうFront Sight and Back Sightと聞くと刑事ものの欧米のドラマなどで聞き覚えがあるはずだ。江戸時代の日本語ではFront Sightを先目当て、Back Sightを元目当てと呼んだ。この目当ての位置というのは復元における最も重要なポイントの一つである。なぜならば、この目当てのバランスでその銃の本来の性能を左右するためだ。私のしている復元は模型でありながら、本来の技術を無視してしまうような偽物を作らないように努力している。

 まずこの火縄銃の長さからそのバランスを例となる他の火縄銃の写真から考察する。現在は便利なもので、写真からその実寸を図れる機能がインターネット上に存在する。数種類の仙台筒の写真、特にゆがみの少ないものを選んできて距離を測っていった。この方法とは別に、実際の製銃の方法での先目当ての位置は米国の友人アーサーさんより指南いただき、6間先の標的に合うようにという事であった。これで先目当ては割合簡単に設置場所を特定した。結果的に先目当ての位置は銃口から10㎜から12㎜で今回は11.5㎜と判断した。写真は拙宅の庭で測量の図。

 

 

 

 さて後目当てはその設置の測量方法が解明できず、画像からの推定で行うこととした。胴金から何ミリの物が多いのかを参考にした。大体の物が170㎜から185㎜という結果となった。此処からはこの15㎜の違いをどのように落とし込んでいくかを考えたが、私の結論は6寸となる182㎜であった。

 

 

 目当てを備え付けた後、仙台筒の専門家のTodou455さんから彼の詳細な研究によるラフスケッチの提供を頂いた。木製摸造銃身のラフスケッチ | todou455のブログ 火縄銃ときどき山登り (ameblo.jp)

 このラフスケッチによれば、先目当ての位置は誤差0.5㎜とほぼ完ぺきであった。後目当ては残念ながらその誤差10.5㎜と割合大きくなってしまったが火縄銃の全長である1430㎜から考えればその誤差は0.73%で僅差と呼べるだろう。

 Todou455様には情報をご提供いただき心より御礼申し上げます。

 

ホ、目当ての形状の研究は明日書くことにします。