「お待たせ~!ゆのちゃん、はい。」

日下部店長が私の目の前にアイスコーヒーとストローを置いてくれた。

 

悪寒が走ると同時に何だか身体中が熱い変な感覚に襲われていた。

私はストローを使わず、グラスを持ったままアイスコーヒーを一気飲みした。

 

「ゆのちゃん、大丈夫?ホットケーキも半分残してるじゃない。もう1杯アイスコーヒー買ってこようか?」

「きちんと食べないと身体壊すって、いつもみんなに言ってるじゃん!ダメだよ、きちんと食べないと。」

 

2人の親切が嬉しかった…と同時に、私には構わないで欲しかった。ほっておいて欲しかった。

でも、そんな事言えるはずがない。

 

「大丈夫です。今は食欲より、喉が渇いちゃって…。夕方休憩の時に、また何か軽食食べるんで心配しないで下さい。私、今日、早く上がりたいんで、ちょっと早いけど売り場に戻ります。お先にです。日下部店長、ごちそうさまでした。」

そう言い、頭を下げエレベーターに向かい3階まで降りた。

 

「ただいま。」

「あれ?ゆのさん、まだ20分以上休憩残ってますよ。」

「うん。そうなんだけど…早く上がりたくてさ…18時きっかりに…。」

「そうでしたか。いつもいつも残業なさってるんで、たまには定時で上がっても誰もゆのさんを責めませんよ。私達も少し早く休憩回しちゃいますね。」

「ありがとう。何か売れた?」

「ニットのセットアップとシフォンのスカートが売れました。」

「そっか…まだまだコート類は動かないね。」

「お手に取られたり試着される方はいらっしゃったんですけどね、なかなか売り上げには結びつかなくて…すみません…。」

「仕方ないよ。まだ10月だもん。北海道の方や仙台の店舗はコートやダウンが動いてるらしいから、店舗間商品移動してもらえるようにFAX流してみるわ。きっと忙しいから電話も取れないだろうし、メールも見てる暇ないと思うから、邪魔したくないしね。売り消し帳出してくれる?」

「それだったら、私が休憩から戻ってきてからしますよ。ゆのさんはそんな細かい事までなさらないで下さい。」

「いいのよ。これから夕方まではお客様の入りも鈍るから、2人が戻ってくるまでにしておくわ。」

「いつも、…すみません…。気が付くのが遅かったり、全部の仕事をゆのさんがしてるようで…本当に申し訳ないです。」

「いいよ。大丈夫だから。上(社食)に大山店長と日下部店長いらっしゃるから、きちんと挨拶してきてね。」

「はい。じゃあ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。ごゆっくり。」

 

接客が出来なかったら、先ほどの空耳や背中に悪寒が走ったことを考え込んでしまう。

だから、私はそんな事を忘れるくらいの仕事をしたかった。

 

”ゆのちゃ~ん!”

…この声が私の脳裏でこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どくしゃになってね!