どんな感覚も夢や離人症[自我感消失]の萌芽(ほうが)をふくんでいる
モーリス・メルロ=ポンティ
どんな感覚もまずは「無記名」の状態で生じるのであって、何かが感じられのも私がそれを感じるのではない、とフランス哲学者は言う。
〈私〉の「手前」もしくは「辺縁」で立ち起こる出来事としてすでに「世界に加担」しており、そのかぎりで〈私〉のこの存在はどこまでも透明とはならないのだと。
『知覚の現象学・2』(竹内芳郎ほか訳)から。
2024.7.25 朝日新聞 「折々のことば 鷲田清一」から。
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二十四時間の出来事を漏れなく読むには少なくとも二十四時間かかるだろう
夏目漱石
たとえ「精細なる描写に価する奇言奇行を弄(ろう)する」わが主(あるじ)が対象であろうと、それらを枚挙することはできないと、小説『吾輩は猫である』の語り手の猫は言う。
そもそも一日になした行為を数えるのは無理なこと。
どんな行為も連続する生をある視点から切り取ったものでしかないから。
解釈を一切含まぬ報道や歴史上叙述など不可能だ。
2024.7.30 朝日新聞 「折々のことば 鷲田清一」から。
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