すでに観た方もいらっしゃるようですが、新聞に掲載されていた評論を。

ネタバレもありますので、先入観なくまっさらでご覧になりたい方は、パスして下さい。


**************

すずめの戸締まり 自分語り封じ 彼方の声をきく

一つの町全体を破壊する隕石落下、都市を水没させる長雨……。

近年、架空の自然災害を一貫して描いてきた新海誠監督の映画が本作でついに東日本大震災という現実の出来事に深く切り込むことになる。


日本各地に点在するこの世ならざる世界に通じる〈後ろ戸〉。

そのほころびからはパンドラの箱のごとく〈ミミズ〉という、赤黒い渦巻きがこちらの世界に侵入し大地震を起こす。

それを閉じて地震を未然に防ぐことを生業とする青年草太に、高校生の鈴芽が出会い、後ろ戸を閉める日本横断の旅が始まる。

村上春樹の短編「かえるくん、東京を救う」を思わせる。

そこでは地底で大地震を起こすみみずくんと、それを阻止するかえるくんとの死闘が描かれていた。


吸引蓄積された様々な憎しみ」でみみずくんが膨れ上がるように、ミミズが現れる後ろ戸は、日本の負の感情が蓄積されたような廃墟にある。

映った風景に定評のある新海映画だが、本作では負の景色があえて可視化される。

ミミズを鎮めるために、鈴芽は〈戸締まり〉をしなければならない。

具体的にはそれは、かつてそこにいた人々に思いを馳せることだ。

そしてそれは鈴芽自身の失われた時を求めての、精神の旅の様相を呈することになる。


本作の小説版のあとがきで、新海は震災が自分の「通奏低音」になったと述懐している。

それは不条理に抹殺された声なき声であろう。

これまで多用してきた自分語りを封じ、鈴芽には彼方からの声に耳を傾ける役目を負わせた。

そこには今までとは決定的に異なる果敢な一歩を見てとることができる。

(大久保清朗・映画評論家)

2022.11.11付け朝日新聞夕刊から
*************

「吸引蓄積された様々な憎しみ」

「日本の負の感情が蓄積されたような」

「自身の失われた時を求めての、精神の旅」

インスピレーションが湧きます。


先日新聞に太平洋側でマグニチュード9程度の大地震が起こる可能性があると報じられていて。

確か翌日岩手で、震度5。

昨日は震源地が三重県沖で、関東が震度4~3。

そして石川県で震度4。


「日本の負の感情の蓄積」(ひとりひとりの負の感情の解放)

「自分の精神の旅」

いま大切なことでしょう。


近場の上映館のスケジュールを確認したら、3スクリーンで1日20回ほど上映されているようです。

少し落ちついたら出かけてみようかな。