短編小説「トリ」 | 弓削智久オフィシャルブログ『弓削日和』Powered by Ameba

弓削智久オフィシャルブログ『弓削日和』Powered by Ameba

弓削智久オフィシャルブログ『弓削日和』Powered by Ameba

弓削智久オフィシャルブログ『弓削日和』powered by アメブロ
 
気付けば遠くまできたもんだ。

うしろを振り返れば
さっき点けといた目印は何処へやら

まるで違うところにみえる。

都心のゴミを漁ったが、大物はカラスに捕られるし
小物を持ち帰っても、息子達には白い目で見られる始末。

生臭い飯ばかり食べさせて申し訳なくて
とりあえず逃げるように飛び続けた。

目を瞑って、羽が痺れるくらい、ただただ飛び続けた。

ゆっくりと目を開けると、そこは海だった。
陽が落ちる寸前だったようで空の色が気持ち悪かった。
その気持ち悪い空を、寄り添って見つめている男と女。
その男と女を見つめる、食事中の初老の男。

頭上には鳶が優雅に舞っていた。

男と女はお互いの目を暫し見続けた後に、ゆっくりと口と口を合わせた。

刹那、鳶は急降下し、初老の男が食べるハンバーガーを器用に奪い上げた。
驚き、なんとも情けない声を出した初老の男の姿を見て
男と女は声を上げて笑った。
軽く会釈をして申し訳なさそうにその場を立ち去る初老の男。

鳶を見て思う。あんな事自分には到底出来ない。
尊敬の意を込めて、暫く鳶の姿を目で追っていたが見失った。自分の巣に帰るのだろうか。

右から視線を感じる。ふと見るとさっきの初老の男だった。
男はこちらを虚ろな目で見ていた。
暫くすると、男の目には生気が戻り、徐に着ていたカーキのジャケットの内側を弄りだした。

男の口元は緩むだけ緩み、皺だらけの手にはハンバーガーがあった。
その包みを丁寧にとり、男は自分の前にゆっくりと置いた。

なんだか全てが可笑しくなって声を上げて笑い飛ばしたくなった。

初老の男に、軽く頭を垂れ、痺れている羽を確認した。
ハンバーガーに食い付かない自分を見て、
初老の男はさっき鳶に襲われた時と同じような顔をしていた。

羽を大きく伸ばすと、身体が空に浮かんだ。
家の方向がどちらか分からないが、とりあえず風に身を任せる。


海の中に、陽が潜っていく。空の色が変わった。
その仄暗い海上に、獲物を嗅ぎ付けたカモメの大群が目に入った。

風は急に大群の方に向きを変える。息子達の顔がなぜかよぎった。
ちぎれそうなはずの羽が軽くなった。

鳶の優雅な舞を必死に真似して、僕は海に飛び込んだ。


おわり

















‥‥なんつって写真の鳥は鳩です(笑)