京の底抜け

<天道花 京左右往来展始末>

 

古来から

「半島」と「谷」と「盆地」は 文化の「吹き溜まり」

またの名を 「福溜まり」とも呼ぶ

なかでも京都は 風水に叶う「稀有なる盆地」 

北に山を背負い 北東に源を発する水は 南を巡り やがて西海へと

その地理地形こそが 京都千数百年の 「吹き溜まり」 

 都としての永続の

太い根だった のかもしれない

 

昨年の「京都展」で 約八日ほど滞在したが

京都という「場」は 「底知れぬ沼」 かもしれぬと 思いつつも

再びの「展」とは 既に沼に片脚 捕られたるか

有為の奥山 今日越えて 浅き夢みじ 酔ひもせす

だなす

 

 

紅旗征戎我が事に非ず

<こうきせいじゅうわがことにあらず=覇権争い事は わて関知いたしません>

藤原定家卿のコトノハ

柳に嵐と 吹き散らし

表に「義」 裏に「猛き野望」の紅旗を 靡かせて

西や東の旦那衆 入り乱れての 蹂躙の明け暮れ 修羅の連鎖

加えて 地震 疫病 火事 飢饉 と暇(いとま)なし

死屍累々 堆積して 泥沼と化す

たまりませんわ

その泥土の上澄みに開く 蓮花を指して 「京の雅」と言うが

華麗なるヒラメ 「王朝絵巻」にも ドンドロの下貼りがある

表あれば 裏見葛の葉

定家卿の 歯ぎしり聴くや 秋の暮れ

 

 

京のぶぶ漬け

「ぶぶ漬け どうどす」とは 長居の客への 退散の促し

坂東の「逆さ箒」とともに もはや伝説やも…

これを 揶揄するは いと易きことだが

定まらぬ日乗の 修羅を凌ぐ やむなき手立て と観れば

あしらい いなし しのぎ あいさつ とりなし…と

これは高度な 京童の世渡りの「必殺技」の極意では あるまいか

霞ヶ関あたりの 幼稚な「忖度」なぞ 到底足許にも及ばぬ

 

屋根の上の

東山の画廊への坂道を 「木偶二体」抱えて よろよろ弱法師

宅配に頼めばラクだが ちょいと繊細な小僧だから

独言まじりに 喘ぎつつのぼる…

 

 

おぉい そこの流れ者 

またぞろ 来たか

なんとその聲 鍾馗殿 ひとの事は言えますまいに

貴殿は 唐の「玄宗皇帝」の夢に 流れて入っての鬼退治

勇猛世に聞こえ 那木の葉に乗って 日の本へ

貴殿こそ 流れ流れの流れ者の ご本家ではないか

うむ じゃがな 彼の国も 紅旗猛々しく 棲みにくぅて のう

いずこも 相似たり か

 

 

千本塔婆の居酒屋

今回の「展」 三人展なれば その色

三者三様に響き合い 賑おぅて 薫風に回る 「花の風車」

あたしは 「眼球恐怖症」なれば 「眼当たり症」にて 四日目でダウン

 

幸運にも

甥来りて助け舟 西陣千本通りの伝説の居酒屋 「神馬」へ

千本通りは かつての朱雀大路

北に内裏の朱雀門 南に羅生門という 縄張りであったが

湿地帯で疫病の多発に 困り果て 内裏を高台の左京へ移す

あとは 葦原荒れに荒れ 北の船岡山 蓮台野は無縁仏の捨て処

その葬送の道筋に 供養の塔婆千本が 立ち並んだという

由来による

 

 

京雀止まり木

「神馬」は 

大正の創業以来 三代に続く 居酒屋

 一元 馴染み 有名 無名 様々に…その客の素性は問わず

ここで酒を飲むと 俄然、京の印象が グルリンパと逆転する

現三代目は 祇園の割烹で 京料理の修業したひと

 

和食のユネスコ「世界無形文化遺産」登録への 感想を問われて

答えて 曰く

ありがたいことやと思うけど 僕は自分のことで精一杯…

京料理の伝統を 守ることとかは 頭になくて…

どうしたら お客さんに おいしいものを…

そればかり 考える毎日です

京料理を 知り尽くした

ひとの言

うむ これを「伝統」と 言う

<嗚呼あわれ 骨董文化庁は 京に来て「底抜け沼」に 沈んじまったな>

福島に「環境省」を移せば この国もちったぁ

マシやろに…

 

<丑三つ刻の祇園 百鬼夜行 シュール 出やるぞなもし>

 

麻の暖簾格子戸

潜ると意表を突く マホガニー古色のカウンター 

渋い髭の粋なバーデンが シェーカーを振る

看板際に差し出しされた名刺には なんと「古勝直次郎」と

「河内山宗俊」の「直侍」ではないか とんだところに「北村大膳」

 

烏丸通りかぶき

帰路 京都駅に向かうバスの窓から 異なものを見た

二十歳代とおぼしき女性 白シャツに蝶ネクタイ

黒のつなぎの 出で立ちで なんと看板を振り分けに

烏丸通りを悠揚と 闊歩している

ランチの お誘いか 

眼を疑っちまう

一瞬のことで 写真も及ばす 詳細は

小僧に再現させてみた

粋じゃないか

ぇ 

 

 

餓鬼の頃 新調の下駄で 天気占いして

川に はまって 流れて 失せた

別珍緒の 朴の下駄

もしや

京の底抜け沼に

漂っている かも しれない

見つけることが 出来たなら

あたしも

卒業だ

 

 

一軒の居酒屋の八十年の春秋を語ることで 京都の市井の暮らしと文化が見える

西陣の機音 映画の魁・牧野省三 水上勉と五番町夕霧楼 

フグ三津こと七世坂東三津五郎 香具師 渡職人…

もうひとつの 多彩な京の