アメリカ在住の主婦で薬剤師のYUです。

 

日本人の死因のトップは、男女ともにがんですが、アメリカでは心臓の病気が男女ともに死因のトップで、国民の関心が高い病気のひとつです。例えば、シリアルの箱の表面に「この商品は心臓に健康的ですよ」、側面に「心臓の病気のリスクを上げる食品の説明」が書いていることもあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

ニューヨークの一部の地域では、マーガリンなどの加工された油脂に含まれていて心臓の病気のリスクを高めるといわれている「トランス脂肪酸」を公共の飲食店で使用できる量が、約10年前から制限されました。制限された地域と、そうでない近隣の地域を比べると、心筋梗塞による入院率が7.8%減少しました。→詳しくはこちら

 

 

日本人の死因の第2位は心臓の病気、第4位は脳血管の病気ですが、それらを合わせると、がんと同じくらい、つまり、国民の4人に1人が心筋梗塞や脳卒中で亡くなっています。心臓と脳は離れているので別々の原因だと思ってしまいますが、実は、両方とも「血管」が原因で起こる病気なのです。

血液が勢いよく血管の中を流れるためには、血管の壁にしなやかな弾力があり、血管の壁が汚れていないことが大切です。血管の壁が老化して硬くなったり、余分な脂質がこびりついて固まったりすると、血液の流れが悪くなり、血液がつまりやすくなってしまいます。これが、「動脈硬化」の状態です。この動脈硬化の状態は、痛くなったりかゆくなったりする症状がないので、病院で血管の状態を検査しないとわかりません。しかし、動脈硬化の状態を放っておくと、血管の壁についてしまった塊が大きくなって、血管がつまってしまったり、最悪の場合破裂してしまったりします。これが、心臓で起これば心筋梗塞、脳で起これば脳梗塞になります。

 

 

動脈硬化は、加齢、喫煙、糖尿病、高血圧など血管に負荷をかける様々な原因が重なって進みますが、特に悪化させるのは血液中の脂質の異常、つまりコレステロールや中性脂肪の量が正常でない状態です。検査値が下記基準のいずれかを満たした場合、脂質異常症の診断となります。

 

 

≪脂質異常症の診断基準≫

・LDLコレステロール:140mg/dl以上

・HDLコレステロール:40mg/dl未満

・中性脂肪:150mg/dl以上

・Non-HDLコレステロール:170mg/dl以上

※総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値。2017年に登場した新しい基準です。

 

コレステロールは、常温で固体の油脂なので血液に溶けません。そのためLDLやHDLという粒子と結合することで、血液の流れに乗って、身体のすみずみへ運ばれます。LDLと呼ばれる粒子で運ばれているのが悪玉コレステロール(LDLコレステロール)で、多すぎると血管の壁に蓄積してしまいます。HDLで運ばれているのが善玉コレステロール(HDLコレステロール)で、血液中の余分なコレステロールを減らす作用があります。LDLとHDLのどちらが悪玉でどちらが善玉だったか忘れてしまう方は、「Healthy(健康な)のHは善玉」と覚えておきましょう。

 

一方、中性脂肪は、血液中に存在する脂質で身体に必要なエネルギー源ですが、使わないと身体に溜まって体脂肪になってしまいます。また、中性脂肪が多すぎると、善玉コレステロールが減ってしまうので、日常生活や運動でエネルギーを消費して、中性脂肪の値を正常に保つこと大切です。運動を継続的に行うことで、善玉コレステロールが増えることもわかっています。運動習慣がない方は、日常生活で歩く距離や時間を増やすことから始めてみましょう。慣れてきたら、ややきつめの有酸素運動を30分以上行うことがおすすめです。

 

 

コレステロールは、細胞やホルモンを作る材料としても使われています。女性は更年期をむかえると女性ホルモンが減少します。女性ホルモンの材料であるコレステロールの消費量が減ることで、血液中のコレステロールが増える傾向になります。そのため、若い時と同じ生活習慣をしていると自然とコレステロールの値は上がってしまいます。また、女性ホルモン自身にも、血管をしなやかに保つ作用悪玉コレステロールを減らす作用がありますが、閉経以降はその作用が減ってしまうので、動脈硬化のリスクが高くなります。

 

 

検査で異常が見つかっても、みなさんの年齢や、治療中の他の病気によって動脈硬化になるリスクは異なるので、それぞれの治療目標値は異なります。遺伝が原因の人もごくわずかにいますが、多くは長年の生活習慣が原因です。まずは日常の生活習慣(食生活、運動、禁煙、飲酒、ストレス、睡眠など)を見直し、血中の脂質濃度を改善して、動脈硬化やそれに伴う心臓や脳血管の病気を予防しましょう。食事は食物繊維や青魚、海藻、大豆、オリーブオイルをよくとり、カロリーや動物性の油脂、アルコール、糖分のとりすぎに気をつけましょう。数値の改善が少ない場合は、お薬による治療が必要ですので、医師に相談しましょう。

 

 

YU