何と言っても筆頭に来るのは、凄まじい紀平梨花選手のシニアデビュー戦初優勝だろう。

 SPで最初の3Aを転倒してしまい5位発進。

 前日練習では10数回の3Aを着氷していたが、如何に紀平選手と言えどもデビュー戦の緊張があったのかもしれない。

 トクタミシュワも3Aを決め首位発進。

 宮原選手はエディット ピアフの生涯を見事に演じ2位、三原選手も持ち前の美しいスケーティングを余すところなく発揮して3位、初日上々の発信。

 つづく2日目、紀平選手は圧巻の3Aを2本決めて154.72のビッグスコアを叩きだし、トータル224.31で華々しいデビューを果たした。

 宮原選手はSPに続いてFSも2位で総合2位、三原選手は惜しくもメダルを逃がしたものの4位と健闘した。

 奇しくも同門対決となった紀平選手と宮原選手だが、ここに濱田コーチの手腕を見る思いがする。

 紀平選手は生まれ持っての身体能力と強靭な体幹を有していて、濱田コーチの指導の下、素直にメキメキと頭角を現してきた。

 一方宮原選手は、濱田コーチが事ある毎に「知子はどんくさかった。」と述懐しておられたが、一つの事をとことんやり切る能力は一つの才能だと仰った。

 高校生の知子ちゃんは、インタビューにも二言、三言答えると口をつぐんでしまうようなシャイな少女だったが、怪我をして長期のリハビリを強いられた辺りから精神面と表現力に爆発的な成長を遂げたように思われる。

 この二人の才能の違いと、夫々の長所を伸ばす指導力こそ、この結果を導き出した要因だと思うのである。

 それは三原選手にも言えることで、中野コーチが三原選手と坂本選手という全く異なった才能を、潰しあうことなくお互いを切磋琢磨出来る環境を作り出す指導力と重なる。

 これは実は簡単なことではない。

 厳しさの裏に愛情が無ければ、選手の心は離れていくかもしれない。

 それにしても、あのシャイで無口な知子ちゃんが氷上に立つと、その演ずる姿は最早芸術の域であり、世界の女子のトップと言って過言ではない。

 紀平選手と宮原選手は全く違った個性だからこそ、共存の道も開ける。

 濱田コーチの「行ってらっしゃい」の掛け声は、夫々の選手の胸に力強く届いている筈だ。