新生児には両眼視機能(両目を使って物を見る機能のこと。例えば立体視など。)は見られません。生後の環境により急速に開発され、3才頃には完成に近づいて来ます。従ってこの期間に眼帯などで両眼視を妨げる様なことをすると、永久に両眼視機能は開発されないことになってしまいます。(赤ちゃんには間違えても眼帯はしないで下さい。)
ヒトの視覚野は後頭葉にありますが、ここでは左右眼に関わる外側膝状体からの入力は眼優位円柱 : ocular dominance column に分離されています。この分離は出生前に起こっており、遺伝的に構成されたタンパク分子の誘導により為されていると考えられています。
この眼優位円柱は可塑性を備えており、生後どちらかの目からの入力がなくなると、それに対応した眼優位円柱は縮小し、対眼に対応した円柱は幅が拡がります。これはサルを用いたTorsten Nils Wiesel (1924-) と David H. Hubel(1926-)の有名な実験により証明され、彼らはこの業績で1981年にノーベル生理学賞を受賞しました。
上の写真はヒューベルとウイゼルの文献より。正常での眼優位円柱(上)と片眼を遮蔽した場合の眼優位円柱(下)
Wiesel
ヒューベルとウィゼルの眼優位円柱の可塑性は形態学的な変化を伴っていますが、 一般に神経回路網を形成する神経細胞は、入出力に応じてシナプス効率を変えることで自己の特性を適応的に変えることができます。神経回路網が外界の環境に応じて、シナプス効率の変化でその性質を変える現象(シナプスの可塑性と呼ばれます)を神経の自己組織化と言います。
ある神経細胞にN個の入力があるとき、入力をX1, X2, X3,・・・、
それぞれのシナプス効率をS1, S2, S3,・・・ とすれば、この細胞は全体でU=X1*S1+X2*S2+X3*S3+・・・の刺激を受けたことになります。
その出力ZはベクトルX, Sの内積X・S および出力関数f(u)を用いて
Z=f(X・S) で表すことができます。
このSは入力信号の学習により変えらると考えられるのです。
最も有名なのがヘッブのシナプス強化則です。カナダの心理学者Donald Hebb (1904-1985 下の写真)は1940年代にシナプス可塑性に対する仮説を唱えました。
この仮説は、シナプス前部とシナプス後部の神経細胞が同期して活性化された場合、そのシナプスが強化されるというものです。
AとBの神経が同期して活動するとシナプス効率が高くなる。
その後分子生物学の発達に伴い、ヘッブの仮説はその機序が証明されています。
それは次回に