生体膜 | きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

細胞や小胞は膜で囲まれていて、その機能を保っています。前回記載しましたように、膜は外界からのバリヤーやフィルターとしての機能を果たしたり、その組織の一部が生物学的活性を示す物質に変化したりして、大変重要な役割を演じています。それではそのような膜はどのようにして出来ているのでしょうか?


生体膜はどこでもほぼ共通し、5~10nmの厚みを持っています。



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生体膜を構成する重要な要素はリン脂質です。脂肪分子は水に溶けず、このような物質を疎水性物質と言います。リン脂質は疎水性の脂肪分子にリン酸を介して、水に溶ける性質のある物質(親水性物資)が結合してできています。従ってリン脂質は疎水性部分と親水性部分と2つの部分より成り、このような物資を両親媒性物質と言います。(界面活性剤も典型的な両親媒性物質です)



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Xにはコリン、エタノールアミン、セリン等があります。


両親媒性物質が水に出会うと、親水基を水に向け、疎水基をそれとは反対側に向ける構造を取ります。この時、親水性部分が大きく疎水性部分が小さいと球状のミセルという構造になり、疎水性部分が大きくなると膜構造になります。



ミセル


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ラメラ(膜)


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このような構造になるのは疎水性相互作用が働くからです。疎水性相互作用とは水が疎水性物質をはじく作用のことを言います。(疎水性物質同士が積極的に結合したと言うわけではなく、水がはじく力により集合し、上記のような構造物となるのです)



疎水相互作用で疎水基ははじかれます。



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このように、疎水相互作用により結合することを疎水結合と言いますが、これとは別に電荷を持つ分子(極性分子)間では電気的に結合あるいは離反する力を生じます。これをクーロン力と言います。クーロン力は分子の電荷に比例し、距離と誘電率に反比例します。



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qは電荷、εは誘電率、rは距離





クーロン力による分子間の相互作用を極性相互作用と呼びます。



原子が電子を引きつける力は原子により異なります。この力を表す尺度を電気陰性度と言います。水素の電気陰性度は2.1で、酸素の電気陰性度はフッ素に次いで大きく3.5です。



水は酸素Oと水素Hとがシグマ(σ)結合した物質で、酸素の電気陰性度が大きいため、電子は酸素側に取られてしまいます(σ-)。こうしてOマイナスとHプラスとなり、水は極性を示すことになります。(したがって、水分子同士は極性相互作用で結合することになりますが、特に水素を介する電気的結合のことを水素結合と言います)




極性分子が水に入ると、+ 側にはσ-を持つ酸素原子が取り囲み、-側はσ+を持つ水素原子が取り囲み、極性分子は水に溶けることになります。こうして極性分子間のクーロン力は消失してしまいます。




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このことを誘電率の観点から捕らえると(クーロン力は誘電率に反比例します)、水の誘電率が油の2に対し80であることから、水の中では極性相互作用が弱くなることが示されます。(水素結合は従って水がない環境で強く作用します。また、極性分子は水中では極性相互作用が消失し、イオン化することとなります。)



誘電率が2の油での作用


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誘電率が80の水での作用
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非極性分子が水に入ると疎水性相互作用によりはじかれ、水は分子の周りを取り囲み、かご状構造を示します。かご状構造ではエントロピーが低くなり、エネルギーが高くなります。エネルギーを低くするには、かご状構造をできるだけ少なくする必要があり、そこで最終的に非極性分子は塊を形成し、エネルギーを低下させることになります。こうして疎水相互作用により必然的に疎水基を内側に向けた膜構造ができ、この状態が最もエネルギーが低いので、極めて安定した構造となります。





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逆に疎水相互作用により生じた生体膜は、水の存在下でしか安定ではないと言うことも言えるのです。このことが実は神経伝達物質の小胞からの放出に関係しているのです。



これはまた次回に。