眼球の屈折系 | きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

水晶体は理科実験などで馴染みの凸レンズの形をしていて、いかにもレンズという感じで、眼球のレンズ系の主体を為すもののように見えます。


しかし、眼球レンズ系で最も屈折力のある組織は角膜です。眼球全体で約60D(ジオプター:焦点距離の逆数)の屈折力がありますが、そのうち40D(全体の2/3)は角膜の屈折力で、水晶体の屈折力は20Dに過ぎません。


少々不思議に思われるかも知れませんが、角膜では空気中から水の屈折率に相当する角膜に光が入射するのに対し、水晶体では周りが水ですので、光は水からそれよりやや高い屈折を持つ水晶体に入射することになるため、屈折力は低くなるのです。


いずれにしろ眼球の屈折系をなすものは角膜と水晶体ということになります。



以下の項目は興味のある方だけが読んで下さい。(少々ややこしいかも知れませんので)


光は波の性格を持っていることはご存知だろうと思います。光の速度はおよそ1秒間で30万km です(地球を7周り半ですね)。ただしこれは真空中のことで、伝わる媒体が変わると速度も変化します。水中では真空中のおよそ3/4の速度になります。


光の速さをV、波長をλ、周波数をfとすると、
 
V=f×λ となります。光は媒体により周波数は変化しませんが、波長が変化し、これに応じて速度も変化します。(周波数が変わらないため、波長が短くなっても色が変わることはありません)


ここで、真空中の光速Cを媒体となる物質中の光速C' で割った値C/C'を、その物質の屈折率と言います。水の屈折率を定義により計算すると、C/C*3/4ですから、4/3すなわち1.333・・となります。


光は波ですから、池に石を投げたときにできる波と同じように捕らえることができます。池の波では水面が高くなったところ(波面)が同心円状にでき、周辺に拡がっていきます。光波でも同じように、位相の一致した面のことを波面wavefrontと言います。


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今空気中から水中に光が入射したことを考えます。wavefrontで考えると、先に水に到達したところから速度が遅くなりますので、図のようなwavefrontの進み方をすることになります(波長も短くなりますが)。このことを波の進行方向(wavefrontに直角の線)で表すと、光は水面で屈折し、水面から離れるように進行することが示されます。


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空気の屈折率をN1、水の屈折率をN2、入射光と屈折光の角度をそれぞれθ1、θ2とすると、
sinθ1/sinθ2=N2/N1の関係が成り立ちます。これをスネルの法則(Snell's Law)と呼びます。


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次に、光の進行方向(光路)について考えます。


今、光線が軸から開散するように進行している状態を考えます。A点での軸からのずれをh1、軸とのなす角をq1とし、A点からt m離れた点(B点)でのそれをh2、q2とします。



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するとq1とq2は同じ角度ですから、
① q2 = q1
h2とh1の差(m)は角度q1でt 離れていますので、t×tan q1 となります。q1が十分小さいときはtan q1 = q1と近似できますので、結局 h2 - h1 = t×q1 となり、書き換えて
② h2 = h1 + t q1 となります。

①と②の関係を行列を用いて書き直すと



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となり、行列Tを移動行列translation matrix と言います。


この系は結局



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で表すことができます。


次にレンズ系を考えます。


今光線がum離れた所からq1の角度で厚さの無視できる屈折力Pのレンズに軸からhm離れた所で入射し、屈折しvm離れた位置に角度q2で軸に投射したとします。



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レンズの厚さは無視しますので、
①h1 = h2 = h となります。

屈折力Pのレンズに中心からhmずれたところに入射した光の屈折角dはPrenticeの法則により
② d = h・Pとなります。

d = q2 - q1 ですから、①、②から
③ q2 = q1 + h1・P 


①と③の関係を行列を用いて書き直すと




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となり、行列Rを屈折行列refraction matrix と言います。


この系は


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で表すことができます。


次に二つのレンズ系より構成された系を考えます。レンズがt 離れて位置しているとすると、このシステムのマトリクスS: system matrixは
S = R2・T・R1で表すことができます。


同様に3枚のレンズ系で構成されているときには、S = T3・R3・T2・R2・T1・R1 で表すことができます。


ここでヒトの眼球光学系を考えます。


眼球光学系はスウェーデンの生理学者Allvar Gullstrand (1862-1930) の模型眼が有名です。グルストランドはこの仕事で1911年にノーベル生理学賞を受賞しています。


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彼のデータによると角膜屈折力は42.735D、前房深度は3.6mm、水晶体前面の屈折力は8.267D、水晶体厚は3.6mm、水晶体後面の屈折力は13.778Dとなっています。角膜や房水硝子体は水と同じ屈折率と考えられ 1.333 、水晶体の屈折率は1.416、水晶体後面から網膜面までの距離は16.7mmです。 


まず移動マトリクスの計算のためにそれぞれの距離を屈折率で変換し、メートルに直します。


前房は3.6mmで屈折率1.333ですから、t1 = 0.0036/1.333 = 0.0027
水晶体は厚さ3.6mmで屈折率 1.416ですから、t2 = 0.0036/1.416 = 0.002542
硝子体は深度16.7mmで屈折率 1.333ですから、t3 = 0.0167/1.333 = 0.012525


これらから



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これを解くと、


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となり、レンズ系が大体60Dとなることが分かります。また行列の2行1列目はこのレンズ系の焦点を表しています。


なお、屈折率n1の所から、屈折率n2で曲率rmのレンズに光が入った場合、その屈折力Dは D = (n2-n1)/r で表せます。



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オートレフはこの式を用いて、角膜曲率から屈折力を導き出していますが、大半の機械が角膜屈折率として1.375を使用しています。