母のことを気にかけながらも、自分の家庭も疎かにする訳にはいきませんでした。

毎日仕事をして帰宅したら夕飯も作るし、スーパーに買い物にも行く。

飼っている猫が少し虚弱だったため、病院に通う時もありました。

親族との予定も多く、休日が潰れることもあります。

そんな中でも必ず私がすると決めていたことは、1日1回必ず母へ電話をすることでした。

 

しかし母はよそよそしく、自分から会話を進めることがありませんでした。

あ、Hさんといるんだと、すぐに勘付きました。

そして時には、夜遅くや朝早くに同様のこともありました。

 

おそらくHさんは母の家で生活をしている。

 

次第に私はそう考えるようになりました。

それに対してどう思ったら良いのか、悩みました。

母にもHさんにも聞くことは躊躇われたし、悪いことかと聞かれるとそうでもない。

でも母は認知機能が低下してきているし、何かあった時に私はどうしたら良いのだろう。

 

私は以前のような未来への希望は持てなくなり、考え込むことが増えました。

母にとって一番良いことは何なのか?

答えが出ないまま、世の中はコロナ禍に入っていきました。

 

私は職業柄多忙を極め、少しの間母の問題を後回しにしていました。

そんなある時、夜中に母から電話が鳴りました。

 

慌てて起きて電話に出ると、母が泣きそうな声で「家の鍵がなくなった」と言いました。

電話の向こうからは歩いている音が聞こえ、Hさんの声も聞こえました。

 

「どこにいるの?」

「Hさんとお昼散歩した道を探してるんだよ」

 

あまり覚えていませんが、家は開けっぱなしで外出していたと思います。

「危ないので」とHさんにお願いし、帰宅させました。

そして早朝に起きると、Hさんよりメールが来ていました。

 

”鍵が見つからないため家から出れません。合鍵が必要です”

 

私は体力的な疲れが重なっていたのもあり、追い詰められる感覚になりました。

同時に、追い詰められてはいけない、と頭で強く言い聞かせました。

 

私はできることをやらないといけない。