みなさん、こんばんは。
本日も『夢浮橋』の章について解説してゆきます。
薫が浮舟に遣わした使者は側近くに使う童、浮舟の弟である小君でした。
それは親しんだ弟と引き合わせてあげようという心もあったでしょうが、血が呼び合うことで浮舟の頑な心が溶かされるのではなかろうかという計算あってのこと。
出家までした姫の心をこちらに向けさせるのに小君を遣おうという目論みあってのことであったでしょう。
小君としても初めての大役に、姉であるかどうか見極める任は自分をおいて他に務まらぬと気を張って敬愛する薫君の役に立とうと己を鼓舞するのです。
しかしながら実際には対面も許されず、手紙の返事すらもらえぬ体たらく。
御簾の奥に声を潜めて泣く浮舟の心を誰も知る者はいまい。
小君はとうとう帰るしかなくなりますが、浮舟は再三の勧めにも返事を書こうとはしませんでした。
ただ自分がここにあるという印しに文を結んだだけ。
それはかつて末の松山を引き合いに出しながら宮との不義を詰った薫君への返事に結んだ文と同じ形でした。
ここが私の創作であったのは読者の皆様はお気づきと思います。
自分であるからと知らせてもうあなたとは縁を結べないという女心をそれとなく表すとしたならば、やはりどこかにその痕跡を残したいというもの。
それは二人だけでわかるものでなければならないのです。
とても切ない場面であります。
明日はいよいよクライマックスの場面を解説致します。



