みなさん、こんばんは。
本日も『翳ろふ』の章について続きを解説してゆきます。
さて、この章も後半に差し掛かりますと、その後の薫と匂宮の様子が描かれております。
それはやはり対照的なもので、薫は淡々と公務を果たすものの、いつまでも浮舟の存在を引きずりながら三条邸に引き籠り、匂宮は恋の痛手は新しい恋で埋めようと以前にも増して美女と噂の女人に言い寄るのです。
ここで薫の以前からの恋人・小宰相の君が登場しますが、彼女はこれからの物語で大きな役目を担ってゆくのです。
それはもちろん浮舟発見につながるのですが、この女性がまた奥ゆかしく気骨のある魅力的なキャラクターですね。
才気があって言い寄る男を軽くいなす彼女でも本当に好きな男性には優しい顔を見せる。
あの匂宮でさえぴしゃりとやられるのはなかなか痛快です。
原典においてこの辺りのお話というのは結構退屈であまり意味のある部分とは言えません。
特に深窓にかしずかれた宮家の姫が零落して女一の宮の女官として内裏に出仕している場面は物語上あまり重要ではないのです。
薫はこの姫の女房と歌を交わしたりなどしますが、後ろ盾を亡くした女人の哀れさを思うばかり。
あまつさえ女一の宮を偶然に垣間見て恋心に焦がれる、というのもあまり意味がないように思われるのです。
そこで姫の女房との話は全面カット。
女一の宮を垣間見た場面は以前柏木が女三の宮を垣間見た宿命とをダブらせるように私は描きました。
そこで道ならぬ恋の果てに結ぼれたこの身を呪う薫には女一の宮への恋に身を投じるのを躊躇うという展開にしました。
それは久々の恋心ゆえに浮かれた部分もあったでしょう。
妻である女二の宮に女一の宮と同じ格好をさせたりするのも滑稽ですね。
人生には緩急があります。
ここは緩やかな日常が描かれている部分ですね。
明日も『翳ろふ』の章について解説致します。



