『紫にそまる恋』第百二十五話 ~迷想(16) | YUKARI /紫がたりのブログ

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八月の十六夜の婚姻の宵は月が明るく差し昇り、祝い事にはうってつけに思われました。


匂宮は結局中君には告げられずにいたのが後ろめたく、内裏から直接六条院へと向かおうと考えております。

中君のことを想いながら邸へ戻れぬことを弁解する手紙をしたためるのも、自然と心を込めたものとなるもの。

その手紙を受け取った中君はそ知らぬふりをして通そうとしておりましたのでさらりと返事をしたためましたが、恨みを滲ませるでもなく、宮を気遣う文面に落涙せずにはいられない男心なのです。

もうどのようになってもよい、と宮は心の赴くままに二条院へと向かうのでした。


「中君、今戻ったよ」

「まぁ、どうなすったんですの?」


思わぬこととと見開いた瞳はきらきらと喜びに輝いて、宮にはやはりのこの可愛い人を捨ててはゆけぬ、と心の底から感じるのです。


「なに、十六夜の月が綺麗ではないか。あなたとではなくて誰と眺めるというのだ」

「でも、今宵は・・・」

「何も言わずともよいのだ」


匂宮は恋妻を抱きしめて艶やかな黒髪に顔を埋めました。

互いに今宵の婚礼のことを忘れたふりをして月を眺めながら、しみじみと語らうのは仲睦まじい様子です。

こんな時だからこそやっと夫婦になれたように改めて思われるものなのですが、夕霧の左大臣の息子である頭の中将の来訪が無情にも二人の仲を引き裂くのでした。


 夕霧:大空の月だにやどるわが宿に

      待つ宵すぎてみえぬ君かな


(輝くばかりに美しく、大空の月さえ宿り今宵を祝福せんとするわが邸に、あなたは待つ宵を過ぎてもお越しにならないとは。もしやいらっしゃらないおつもりではありますまいな)


中君はやはり宮の気持ちひとつでどうにかなるような結婚ではない、と顔にこそだしませんでしたが、俯く姿が哀れ深く感じられる宮なのです。


「すぐ戻りますから、一人で月を見てはいけませんよ。たいそう不吉なことですからね」

「大丈夫ですわ、あなた。いってらっしゃいまし」


儚げに笑む愛しい人に背を向けなければならぬ辛さに心は張り裂けんばかり。新婿ではなく引き立てられる罪人のように感じられてなりません。

しかしながら男心とは不思議なもの。

中君の姿の見えない寝殿に移るとはや六の姫はどのような女人であろうかと想う心もあるのです。

宮は念入りに身繕いをすると、前栽の白萩を一房手折り挿頭(かざし=冠に飾る花枝のこと)としました。


「頭の中将、待たせたな。さて、参ろうか」


その堂々として艶やかな振る舞いに息を呑む中将なのでした。





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