『源氏物語』第百六十六話 ~乙女(9) | YUKARI /紫がたりのブログ

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紫がたりのブログ-乙女9



夕霧は深く傷ついていました。


たとえそれが幼い想いであろうとも人を愛するということになんら変わりはないのです。


それなのに大人の都合で“軽はずみなこと”と片付けられ、二人の仲が裂かれようとしているのが理不尽に思えてなりませんでした。





雲井雁はというと、乳母や女房に責められ、ようやく自分の立場を理解したようです。


父が自分に関心のなかった時には放任だった周りの者が急に手の平を返したようで、姫には世間の事情とやらがよく呑み込めませんでした。


ただ幼い心ながらに愛しいと思っていた夕霧とはもう会えないのだと思うと悲しくて、花の顔が曇るばかりです。





大人の事情というものはこのように純真無垢な恋人たちを苦しめるばかりなのでしょうか。


夕霧も雲井雁も突然のことにどうしてよいかわからないのでした。





なんと言われても夕霧はやはり雲井雁のことが忘れられません。





その夜いつものように雲井雁の寝所へ続く中扉を開けようとしましたが、さすがに鍵がさしてあって開く気配もありません。


体中の力が抜けてその扉にもたれかかっていると雲井雁も同じ想いで扉の向こう側に沈んでいるのでした。


その時遠くで雁の泣く声がわびしく響きました。


雲井雁はふと自分の心情にぴったりの古歌を口ずさみました。





霧深き雲井の雁もわがごとや 




   晴れずものの悲しかるらん





(空を飛ぶ雁も私と同じ気持ちで仲間を恋しく思って鳴いているのかしら?)





夕霧はその雲井雁の声を聞いて居てもたってもいられなくなりました。


「誰か、小侍従はいないのか?ここを開けておくれ」


いつも側に馴染んでいた小侍従を求める夕霧の声が切なく、雲井雁は涙を浮かべながらその場を離れました。


雲井雁の気配が近くから消え、夕霧は己の無力感に打ちのめされました。





さ夜中に友よびわたる雁がねに


うたて吹きそふ荻の上風





(夜中に友を呼び飛んでいく雁の声が悲しく響いて仕方がないのに、荻の葉を揺らす風までもが物悲しさを添えることよ)





返事もない漆黒の静寂(しじま)に夕霧はやるせなく自室へ戻りました。


幼い恋人たちは自分たちがどのようのなるのか考えも及びません。


ただ悲嘆に暮れて、目の前の闇だけを見つめているのでした。







この『源氏物語』は私がアレンジして書いているもので、人物描写なども私の想像などが重きを占めています。


また失われた巻についても想像で描いているので、オリジナルのものとは違います。


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