末摘花の一途な想いを露とも知らない源氏は赦されて帰京していました。
しかし朱雀帝の信頼が厚く政務に忙殺され、なかなか出歩くこともできません。
そして多くの者が源氏に取り入ろうと始終邸を出入りするので、たまの休みにもその対応で忙しいのです。
源氏は失脚したことで人の心裡にある二面性というものを嫌というほど見せつけられました。
好意を寄せて近づいてくる者の腹のうちは如何なるものかと冷ややかな目で見ずにはいられないのです。
大后の目を気にせずに別れを惜しみに来た異母弟・帥の宮やはるばる須磨の浦まで訪れてくれた権中納言には真の情を感じます。
花散里の姫からの文にもとても慰められ、御息所も変わらず想ってくださっていたことが嬉しくて、そうしてくれた人たちを何よりもの宝として大切にしていこうと思っていました。
時折は末摘花の姫のことなども頭によぎるのですが、消息も来ないのであまり気にかけてはいなかったのです。
兄君もおられるので元気で暮らしておられるだろう、くらいに考えて、まさか困窮して悲嘆に暮れているとは思いもよらないのでした。
末摘花の姫は源氏が帰京されたと聞いても一向に会いに来てくれないもので、やはり叔母の言うとおり源氏とは縁が切れてしまったかと思うと悲しくて仕方がありません。
鏡を覗きこむとぼんやりと赤い鼻だけがみすぼらしく映ります。
わたくしは何故もう少し美しく生まれてこなかったのかしら。
せめて賢さもあればよいのだけれど、こればかりは今さらどうしようもないことだわ、とまたはらはらと涙がこぼれます。
その年の秋に源氏が亡き桐壷院の追善供養として法華御八講を開かれるという話が巷でもちきりになっていました。
末摘花の姫は人との交わりも無いのでそのようなことはまったく知りませんでしたが、兄の禅師の君が訪れて法会が行われたことを知りました。
兄は珍しく顔を上気させて、法会の素晴らしかったことを熱っぽく語ります。
「源氏の君はまた一段と男ぶりが上がられて、名のある僧侶たちが読経するのも壮観であった。このまま極楽にいるのではないかと思われる催しでなぁ。あの御方はほんに仏か菩薩なのではあるまいか」
兄君は源氏との関わりを知らぬわけではないのに、と姫は辛くなってまた涙がこぼれました。
禅師の君はそれとも気付かずに法会の素晴らしかったことなどを話し続けておりますが、姫の耳にはもう何も届かないのでした。
この『源氏物語』は私がアレンジして書いているもので、人物描写なども私の想像などが重きを占めています。
また失われた巻についても想像で描いているので、オリジナルのものとは違います。
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