あっという間に一か月が過ぎ、源中納言家が引っ越す日がやってきました。
大方の荷物はすでに三条邸に運び込んであるので、牛車を連ねて一家が引っ越すだけです。
今日のこの日を楽しみにしていた北の方と娘たちもすっかり支度をして牛車に乗り込もうというその時、家来の者たちが血相を変えて走ってきました。
「何です?騒々しい。めでたい日に水をさすようなことは慎みなさい」
と北の方が大声で怒鳴ると、家来の者たちは息も切れ切れに話し始めました。
「大変でございます。三条邸を占領している輩がおりまして、どこの邸の者かと思ったら新中納言家の家来で、人の持ち物である邸で何をしているのかと、無理やり追い出されてしまいました」
「何ですって?新中納言が?」
北の方はわけもわからずに困惑しましたが、三条の邸が新中納言のものであるはずがありません。
源中納言は呆然としていましたが、何かの間違いではないかと新中納言の父である右大臣に直談判に向いました。
一方二条邸では新中納言家の牛車が整えられて、主一家をはじめ、美しく着飾った女房たちが楽しげに乗り込んでいきます。
そうして十両あまりの牛車を連ねてきらびやかに引っ越し先へ出発しました。
ゆるゆると行列は進み、お昼を過ぎる頃に目的地に着きました。
ここが新居ですよ、と夫に手を引かれて牛車から降りたおちくぼ姫は、はっと息を飲みました。
「殿、ここは三条邸ではありませんか」
庭には新しい石が敷き詰められて、緑も趣深く整えられていますが、見覚えのある三条邸に間違いありません。
邸は以前と比べると見違えるように立派になっていました。
源中納言家が丹精込めて作り上げた邸を横取りするような形になってしまったわけです。
「なんということを・・・」
姫が言葉を失っていると、衛門(えもん・かつての阿漕)が
「お姫様、ここはお姫様の持ち物ですよ。なんの遠慮がいりましょう」
とうれしげに姫を邸内に誘います。
おちくぼ姫は両親たちがどのように思っているのかと考えると胸が苦しくなるばかりでした。
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