今日は『朧月夜の君(おぼろつきよのきみ)』をご紹介しましょう。
朧月夜の姫はあろうことか右大臣の六の姫。
源氏をいまいましく思っている弘徽殿女御、今は皇太后の妹君です。
右大臣は弘徽殿女御ほど源氏の君を悪く思ってはいませんでした。
その男ぶり、明晰さ、年齢とともに風采をあげる様子は婿として魅力的です。
しかも源氏の正妻・葵の上はすでに亡くなっています。
六の姫がかねてより源氏の君に思いを寄せていたのは知っていたので、正式に婿に迎えても良いとさえ思っていたのでした。
春の宴の後、朧月夜の晩に二人は出会いました。
弘徽殿の近くで和歌を口ずさむ美女の袖を源氏は思わず引いてしまいます。
暁の別れの折、源氏は姫の素性を確かめようとしますが、彼女は謎めいた微笑を残して「私を想うなら探しあてて・・・」と扇を交換します。
右大臣の姫君には違いないだろうが、六の姫だったら大変だと源氏は考えあぐねます。
六の姫はその時の東宮、源氏の兄である後の朱雀帝に差し上げるために大事にされてきた姫だったからです。
どの姫だったか探す手立てもないまま、六の姫が東宮妃として入内する日が近づく三月の宵、右大臣邸での藤の宴に源氏は招かれました。
その際酒に酔ったふりをした源氏は姫たちのおられるところに忍び込むと朧月夜の君を見つけました。
恐れていた通り、彼女は右大臣の六の姫だったのです。
情熱的で自分の思いにまっすぐなその姫に源氏は惹かれずにはいられませんでした。
源氏とのことが露見し、朧月夜の姫は表立って東宮妃としての入内はかなわなくなってしまいました。
尚侍(ないしのかみ)という低い身分で朱雀帝にお仕えすることを余儀なくされたのです。
朧月夜の君は源氏に心を残しての入内でしたが、朱雀帝はこの才気煥発な姫をこよなく愛します。
その帝の優しさを心苦しく思いつつも、朧月夜の君はまわりの目を盗んで源氏との逢瀬を重ねます。
右大臣邸に忍び入るという源氏の大胆な行動は、弘徽殿皇太后の逆鱗に触れ、益々源氏排斥の気運が高まっていきます。
そして源氏は自ら須磨・明石への隠棲を決めるのです。
一方朧月夜の君に向けられる周囲の目は冷たく、内裏は針の筵でしたが、朱雀帝はそれを大きな愛で許します。
朧月夜の君は自分の浅はかさを悟り、以後誠心誠意朱雀帝にお仕えすることになります。
朱雀帝が亡くなった時には源氏の静止を振り切って、仏門に帰依するという見事さを見せました。