社会的学習理論(モデリング理論)とは?
「社会的学習理論(モデリング理論)」とは、自分が直接体験した事柄ではなくても、他者の体験を観察・模倣すること(=モデリング)で学習できることを説いた理論です。カナダ出身の心理学者で「自己効力感」を提唱したことでも知られるアルバート・バンデューラ氏によって、1970年代に確立されました。それ以前は、行動主義心理学における学習、つまり学習には自分自身で体験することが必須だという考え方が主流でした。代表者を観察することでその他の大多数に学習させることができるとした社会的学習理論は、心理学だけでなく、教育学や社会学へも影響を与えました。
学ぶ」の語源は「まねぶ」
他者の経験を成長につなげるには
学習の基本は、まねをすること。子どもは周囲のまねをしながら育ちます。「学ぶ」という言葉も語源は「まねぶ」だと言われています。
子どもにとって生育環境が重要であることを裏付けた、社会的学習理論の有名な実験があります。空気で膨らませたビニールの人形を用いて、子どもを対象に行われた「ボボ人形実験」です。子どもは三つのグループに分けられ、Aグループでは、大人がボボ人形に対して攻撃的な行動をとっている映像を見せました。Bグループでは、ビデオの中の大人たちはボボ人形への攻撃的な様子は一切見せず、静かに遊んでいました。Cグループには、何も見せませんでした。
その後、それぞれのグループの子どもたちを、ボボ人形を含めたさまざまなおもちゃがある部屋に入れ、遊ぶ様子を観察しました。すると、BグループとCグループに比べて、攻撃的な映像を見せられたAグループの子どもたちは、ボボ人形に対して攻撃的な言動を多くとったのです。
この実験により、人は他者の言動を観察するだけでも学習するという理論が広まり、メディアのあり方にも大きな影響を与えました。社会的学習理論による学習は、良い行動だけでなく、悪い行動も学習されてしまうのです。
社会的学習理論により、学びの可能性も広がりました。学習者が直接体験したことだけではなく、他者の行動を観察し、模範することで学習が可能であると明らかになったことで、学習のアプローチも大きく変わることになりました。しかし、ただ見ているだけでは学習にはつながりません。社会的学習理論における一連の学習プロセスは、次の四つに分類できます。
(1)観察対象に注意を向ける(注意)
(2)対象の行動内容を記憶に保持する(保持)
(3)対象の行動を模倣する(運動再生)
(4)行動に対するモチベーションが高まる(強化と動機付け)
このように他者の体験を学習へと結びつけるには、他者の行動に注意を向けて行動内容を記憶し、模倣するといった能動的な行動が必要になります。「もし自分だったら」と、その人の立場で考えることが大切です。学習は子どもだけのものではありません。大人になっても学び続けることができます。「環境が人をつくる」と言われるように、周囲にいかに疑似体験できる学びの種があるかが、成長の可能性に大きく影響するのです。