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7.
 英語の教科書を読むだけの授業に何の価値を見出すこともできずに内職をしている生徒がほとんどであった。その次の現代文の年老いた教師はカリキュラムにない話をし始める。
彼は黒板の中央に『冗長』とだけ白いチョークを走らせ端正な文字を記す。大きすぎもせず小さすぎもしない、人々が惚れ惚れとするような字であった。

「この冗長という言葉にまつわる故事をしっていますか?三国時代の話なのですが、孔明ほど有名ではない軍師が蜀にいまして、といってもこの名前を知っていなければ受験の必須知識のようなもので、知らないのであれば今覚えたほうがよい。ところで三国志演義についてですが、これは通俗的な歴史書であって作り話の多い小説のようなものです。その中に書かれている話なので幾分か懐疑的な心持でいたほうがいいかもしれません。さて、中国史について得意な人とそうではない人がいることでしょう。……そろそろ飽きてきましたか。ともかく、君たちは自分が何を知らないのかすらしりません。本当は三国志の中にそんな故事はないのですが、それが常識であって知らなければ損をするとなれば君たちは知ろうとする。しかし最初からこの話が嘘であると気付いていれば私の長い法螺話に付き合う必要もなかった。君たちは何が冗長であって何が冗長ではないのかを知るためにも密度の高い勉強をしていかなければいけない。私は内職を否定しません。君たちに内職をさせない授業を進めていくつもりです」

 そういって『冗長』の文字を黒板消しでさっとなぞると、その文字は跡形も無く消えてしまった。



8.
「これがこの国では一番おいしいものなんですよ」

 その国はあまり豊かとはいえない国であった。
 ジャガイモと塩で出来た粗末な煮物を人々はどこでも美味しそうに食べていた。


9.
 ブロンドの女が個人所有しているリゾートの海で同じようなブロンドの女と酒を飲みながら泳ぎ、そのようにして一年を過ごしていた。その一年のうちのある日、私有地のすぐ近くのスーパーでは軽く知能に障害のある40歳程度の醜い男性が店員のした会計のミスに文句をつけており、周囲の人々はひそひそと彼が早くこの場から去ることを望んで話をしていた。


10.
 あまり成功したとはいえない小学校の同級生とセルフサービスのガソリンスタンドで久々に顔を合わせる。そのまま彼の仲間とファミレスへ行き、薄っぺらい会話をする。薄っぺらい会話、ほがらかな時間。幾分か時間が過ぎた。そして何事もなく解散した。

 住居へ戻る際、エレベーターに数字ではなく「最上階」と書かれたボタンがあった。それを若干の不安と好奇心(あるいは先ほどのなんともない出来事がもたらした優越感および僅かばかりの卑屈で利己的で相対的な自己批判から生まれる劣等感を伴う自尊心)により押して、最上階に到着して扉が開いたら、その扉の先には何も無くただ暗闇が広がっており、そしてその暗闇がエレベーターの中にまで侵食してきて、徐々にその暗闇は身体にまとわりつくように濃くなった。

 一人の人間が暗闇に取り込まれたあと、エレベーターには人間がいた痕跡は残っておらず、「最上階」に暗闇だけを残して扉は閉まった。