あたしは、コーンの缶からコーンを一粒残さず落としきるのがすごく得意です。

なんかいきなりくだらない特技なんですけど、これはホントに自信がある。

いまいちわかりづらいんですけど、簡単に言うと、コーンの缶の中のコーンを一粒残さず、なおかつ箸などを一切使わないで落としきるんです。

えぇと、昨日、母がサラダを作っていて、コーンを入れ忘れていたんです。
あたしはコーンがすごく好きで、なんかもう、入れ忘れるとか有り得ない。考えられない。

そしたら母は「各自で入れなさい」とすごく素敵な笑顔で言うんです。

で、うちにはコーンの缶が死ぬほどあるんですよ。かごいっぱいに山積み。なんでかはさっぱり分かりませんけど…

だからそのコーン缶の山から一つとって、自分のサラダの上にもさっとのせたんです。
もちろんここぞとばかりに特技をフル活用ですよね。かなりの気合いで。

隣には、ひどく、迷惑そうな、姉の姿。

「あんたが激しく動きすぎて、テレビ、見えないから。」

いや、いいんですよ。見事にコーンは綺麗にサラダの上に落ちきってますから。物凄く満足です。

えぇと、人間って、なんていうか、そういうのを人に見せたくなるじゃないですか。自分の中で極めたことを、是非、外に、出したい。

なので、小規模ながら、さっきのコーン落としを見ていなかった、コーンを入れ忘れた本人である母に実演してみせようと思いました。

台所には、作りすぎて余った、ボウルに入ったサラダ。
そしてまな板を片付ける母。

「お母さん、こっちのサラダ、コーン入れるよ?」

そう言うと、爽やかにコーンの缶を開け、ものすごい勢いで缶を引っくり返し、底やら側面やらを叩きまくりました。

特技だって思ってたけど、特技だって信じたいけど、本当は認めたくないけど、あたしからコレをとったら何も残らないけど、多分、時間と、ある程度の力があれば、誰でも、出来る。

なんかコレを自分で認めることができて、少し、大人に近付いたような、気が、しました。

それはいいんですけど、あたしが、コーンを異常な勢いで落としてるあいだじゅう、私をうんで17年間育て続けた女のかたが、今まで、みたこともないような顔をして、立ち尽くしていました。







「…自分の娘にこんなこと言いたくないけどね、あんた、それ、すごく、うざいよ。」








ウザくても、誇りを持てば、怖いものはなにもない。