前回の続きの前にひとつ。
悪徳業者と詐欺会社には明確な違いがある。
悪徳業者は、一応のサービスや商品は提供するが、法外な高額請求、手抜き仕事、不要な不安を煽る強引な契約を行う「法すれすれのグレーな商売」をする業者。
詐欺会社は、最初から犯罪(詐欺)」を目的とした会社の事である。
探偵業界で圧倒的に多いのが、「悪徳業者」と呼ばれる輩なのだ。
前回書いた通り、俺が初めて探偵業界に踏み込んだ時の会社は、「探偵紹介所」と言う広告を載せ、問い合わせして来た相談者を全て自社であるB探偵社に誘導していた。
何故B探偵社かと言うと、本来のA探偵社はそれなりに名が知れており、当時すでに設立されていた「日本調査業協会」の会員であったのだ。
万が一、依頼者とトラブルが合った場合、責任はB探偵社という事になるのでA探偵社の名前に傷は付かないというわけらしい。
また、もしB探偵社で契約出来なかった場合、今度は改めてA探偵社を紹介するのだ。
さて、改めて前回の続きだが、何故今現在も悪徳業者が横行しているのか?
何故、30年以上に渡り、改善されて来なかったのか。
もちろん、長い年月の間、業界の健全化に向けて様々な改革があった。
その最たるものが、「探偵業務の適正化に関する法律」であろう。
社団法人日本調査業協会が音頭を取り、自民党の葉梨議員が立法した「議員立法」と言われるものだ。
これにより、反社の隠れ蓑の様な探偵社は営業許可が下りず、殆どが淘汰された。
また、探偵業全体が警察庁の傘下に収まったので、詐欺を行うような会社の多くが業界から撤退していった。
だが、いわゆる「悪徳業者」は、依然として経営を続けていたのだ。
令和8年現在、貴方がもし浮気調査などが必要となった場合、どうやって探偵社を選ぶだろうか。
知り合いに探偵がいたり、弁護士が紹介でもしてくれない限り、ほとんどの人がネットで調べるはずである。
そして、Google検索に「探偵」とか「浮気調査」とかを入れ、最初に上がって来たサイトを見て電話をしてみるのではないだろうか。
あるいは、「探偵紹介サイト」にアクセスして、感じの良さげな電話相談員に話を聞いてもらい、「貴方に合った探偵社を紹介します」と言われて安心してしまうのではないだろうか。
御存じだとは思うが、Google検索には「スポンサー広告」と言う欄がある。
任意のワードを登録して、クリックされた際の金額を設定するのだ。
そして、設定した金額が高い順に上位に表示される仕組みである。
例えば「探偵」と言うワードは、1500円から3000円と言われている。
貴方が「探偵」と検索して上位の探偵社のサイトのURLをクリックすると、その探偵社はGoogleに3000円支払う事になる。
スポンサーサイトの常連は、年間4000万円から6000万円の広告料を出しているとの事だ。
これらは全て、高額な調査料金として回収されているわけである。
また、「浮気調査口コミランキング」とかいうサイトもある。
当然ながら自作自演なので信用してはいけない。
さて。
難しいのはここからだ。
大手探偵社は莫大な広告費を掛け、相談の電話を独占している。
月に100件以上は契約しているのではないだろうか。
では、その月100件の浮気調査をどうやってこなしていくのかお分かりだろうか。
例えば、一つの現場には最低でも2人の調査員が必要と言われている。
大手探偵社などは、3人態勢だから成功率が高いと謳い、3人分の契約を取るとこが多い。
月100件の現場だとすると、単純計算1日3件。
9人の調査員が休みなく働けば回せる計算になるが、そんなわけにはいかない。
1日の現場に何時間掛かるか分からないし、調査員の休みも取らせなければいけない。
そもそも契約が100件でも、1件の調査が完遂するのに何日掛かるか分からない。
そう、自社の調査員が10人いようが20人いようが、とても手が足りないのである。
ただでさえ、相談員と言う名の営業マンの人件費や莫大な宣伝広告費が掛かっているのに、何十人も調査員を雇っていたら社会保険料だけでも大変な金額になってしまう。
ではどうするか。
下請である。
大手探偵社は下請け会社を複数抱えていて、調査の全て下請会社に流す。
大手の契約金は1時間27000円から30000円と言われているが、下請業者に払う金額は平均1時間6000円と言われている。
スポンサーサイトに掲載している探偵社のほとんどがこの体制で経営していると言っても過言ではない。
どうだろう。
これが現在の探偵業界の実態である。
商売として純粋に営利目的で探偵社を名乗る企業が繫栄し、純粋に探偵業を志し技術を磨いた職人達が下請として雇われる。
職人達の調査結果は元受けの手柄とされ、下請達は日の目を見る事は無い。
中には大手の営業マンからキックバックを請求される下請もいるらしい。
問題は、どこまでを「悪徳業者」と呼んで良いのか、という事である。
資本のある企業が宣伝を行い、客を集め、資本の無い下請け業者が低賃金で仕事をこなす。
資本主義の日本では当たり前の事だ。
ゼネコンを代表に、元受け会社と下請会社の関係性は昔から存在する。
IT関連やシステム開発、車の製造から広告・出版業界まで。
ありとあらゆるところで、元受け業者・下請業者の関係性は存在するのだ。
問題は、「探偵業」という特異性にあると考える。
探偵は、その仕事の性質上、依頼者が調査の良し悪しを世間に公表する事は無い。
他業種と違って、ユーザーが商品を直に見て評価したり、試運転してみたりする事は出来ない。
あくまでも、「大きい会社だから安心出来そう」という、ユーザーの「想像と期待」によって成立していて、ユーザーの契約の判断は「この相談員なら信用出来そう」という、人の心理の隙・浮気問題で苦しんでいる心の衰弱を利用したものによる事が多い。
霊感商法やスピ系に近しいものがあるのだ。
だからこそ、上辺だけの無知な相談員を使い、高額な契約をさせ、下請業者にやらせた調査をさも自社でおこなったように見せかける行為を「悪質な営業スタイル」である「悪徳業社」と言っているのだ。
俺が最初に入社したA探偵社も、考えようによっては「賢い営業方法を考えたね」なんて言えない事もない。
だが問題は、そうやって集めた依頼者と半ば強引に契約し、多額な契約金を支払わせ、粗悪な調査報告書を渡す事。
何も知らない依頼者に、さもそれが「探偵業界の常識ですよ」と言わんばかりに横柄な態度を取る事だ。
酷い探偵社だったが令和の今も存在しており、ネットに舞台を移した模倣犯も山ほどいる。
この業界全体の問題をどうするかという課題に取り組んでいた同志も、いまや諦めムードである。
日本国の性質そのものという面と、探偵の性質そのものに関わる面の両方で問題は重なっているため、一個人はもちろん、弱小企業が数社集まったところでどうにもならないといいうのが35年もこの業界にいて至った結論である。
では、どうすれば正常な業界になるのか。
答えは一つしか無い。
探偵業を「国家資格」にして、難関な試験や面接・講習など、弁護士並みにハードルの高い業種にしてしまうしかないのである。
国が運営する「探偵学校」を作り、尾行術や撮影術もそこで叩き込まれ、それをクリアして初めて探偵として営業活動が出来る様にすれば、現在の悪質な業者はほとんど淘汰されるだろう。
そんで、堺雅人主演で「TANTEI」というドラマを作れば、業界のイメージもうなぎ上りになるはずだ。
実際に、「探偵業者の適正化に関する法律」が施行される前に、国家資格への要望が出された事もあった。
だが、まずは届出制からという事になったらしく、現在に至る。
はたして、俺が現役でいられるうちに、業界に変化は見られるのか。
それとも、悪徳業者は廃れる事無く業界を牛耳っていくのか。
もはや老兵になりかけている俺には、若い世代に期待をするしかないのだ。