ミナちゃんと別れたくても言い出せない立場だと言うヒロ。
その真相を「ひくかもしれないけど…」と前置きして語ってくれた。
「実は彼女を妊娠させちゃったことがあるんだ」
妊娠………。
どうやら付き合って1年半が経った頃、ミナちゃんが妊娠してしまった。
2人もまだ大学生。
でもヒロは就職先も決まっていたし、結婚して赤ちゃんを育てようとしたらしい。
「俺には堕ろすなんて選択肢はなかった」
早いとは思ったが、子どもは欲しいと思っていたヒロ。
ミナちゃんにも産んで欲しいと頼んだ。
でもミナちゃんは『私はまだまだやりたいことがあるから産めない』と自分の意思で中絶することを決めた。
ギリギリまで説得したがミナちゃんの意思は変わらず、結局お互いの両親にも伝えることなくこっそり中絶したのだった。
「妊娠させてしまった責任は俺にあるから、俺から別れようだなんて言えないんだ」
どうやらミナちゃんに対して罪悪感があるらしく、意見できない立場だと思い込んでるみたいだ。
「妊娠させたって言ってもお互い同意の上での結果でしょ?ヒロ1人の責任じゃないじゃん」
ミナちゃんだって、そういうことすれば妊娠するってわかっていたハズ。
だったらヒロだけじゃなく、ミナちゃんにだって同じように責任はあると思うんだけど。
「『中絶させたくせに』とか言われると、俺なんにも言えなくなるし」
『中絶させた』?
ヒロの話が本当なら、ミナちゃんは自分の意思で中絶を決めたんじゃないの??
確かに2人の責任であっても、傷付くのは女の体方だ。
でもだからってそれを脅し文句のように利用するなんてズルイ。
ふとヒロの腕に目をやると、そこには猫に引っ掻かれたような傷がたくさんついていた。
しかもまだ新しい傷のようで、赤く腫れ上がっていた。
「それどうしたの?」
見ているだけでも痛々しい腕の傷を指さして聞いてみた。
「あぁ…ミナに引っ掻かれた。アイツ爪長いからな」
腕を摩りながら答えるヒロ。
よく見ると首元にも引っ掻き傷があった。
所々血が滲んでいて、本当に痛そうだ。
なんだか私はヒロがかわいそうに思えた。
よくよく考えれば自業自得なのに、ヒロに同情してしまったんだ。
「ヒロの話はわかった。だけどこれからどうするの?」
「俺は本当にユウカを愛してる。こんな気持ちになったのは初めてなんだ。本気でユウカを大事にしたい。だからミナとは別れるよ」
ヒロの気持ちは正直嬉しかった。
でも…
「あの子と別れられるの?」
「今までは遠慮してたけど、俺はユウカが大事だってわかったからもう遠慮しない。はっきり言うから大丈夫だよ」
「そう…でも私ヒロと付き合っている限り、今回のこと忘れないと思う。ずっと引きずると思う。何かあればすぐにヒロのこと疑うようになると思う」
きっと昔の私に戻ってしまうと思う。
相手を信用できなくて疑ってばかりだったあの頃に。
「それは俺が悪いから。ユウカに信用してもらえるように努力する」
「1度失った信用を取り戻すのって大変だよ?きっと『もう嫌だ』ってヒロなっちゃうよ」
また『解放してくれ』とか言われるの、もう嫌なんだ。
あんな思いしたくないんだ。
「それは俺の努力不足が原因だから絶対言わないよ」
「じゃあそれを別れる原因にはしないって約束してね」
「別れるつもりないし大丈夫」
こんな口約束したって意味ないことはわかってる。
でも約束を交わしたっていう事実だけでも充分。
何かあったとき『約束したでしょ』って、自分の行動を正当化できる。
そんなことを考えていた私は、結局ミナちゃん同様ズルイのかもしれない。
