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宗教法人判例・行政情報ナレッジベース

宗教法人アドバイザーⓇ 行政書士橋本哲三が宗教法人等の裁判例・行政情報などを綴ります。

 今回も、墓地等の経営許可に関する事例ですが、

前二回のものより少々赴きの異なる裁判例をご紹介します。

 首都圏の都県市区町村では、条例等で、墓地等の経営主体を、
地方公共団体、宗教法人、公益財団法人又は公益社団法人
あたりに限定している地方公共団体が多いと感じます。

公益財団法人、公益社団法人を経営主体としていないところも散見されます。

 本裁判例は、特定非営利活動法人(以下、「NPO法人」という。)について、

条例等上、経営主体として記載されていないが、

それを根拠に不許可として良いかどうかの判断がされたものです。

【事件の概要】

1.Xは、NPO法人であり、定款の中に収益事業として「国際霊園の経営事業」の記載がある。

2.Yは、「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、「法」という。)第10条に基づく墓地、納骨堂又は火葬場(以下、「墓地等」という。)の経営の許可に関する事務を処理する地方公共団体である。

3.Xは、Yに対し、平成13年2月15日、墓地等許可申請(以下、「本件申請」という。)をした。

4.Y市の「Y市墓地,埋葬等に関する法律の施行に関する規則」(以下、「規則」という。)では、次のように定められている。
規則第2条 墓地等を経営しようとする者は,次の各号のいずれかに該当する者でなければならない。
    1 地方公共団体
    2 宗教法人法4条2項の法人で同法5条1項の主たる事務所又は同法52条3項若しくは53条1項の従たる事務所を茨城県内に有するもの
    3 民法34条の規定により墓地等の経営を目的に設立された法人
    (以下略)


※ ブログ主注記:3の民法第34条は旧民法の条文を参照しています。
「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益に関する社団又は財団であって、営利を目的としないものは、主務官庁の許可を得て、法人とすることができる。」
であるので、「墓地等の経営を目的に設立された公益に関する社団又は財団法人」という意味です。


5.Yは、Xに対し、平成13年8月10日付で、Yの規則第2条に該当しないとの理由で、本件申請を不許可とする本件処分をした。

6.Xは、Yの処分を不服として、平成13年10月6日、Yに対し、異議申立をしたが、同年11月26日付で、Xの異議申立を棄却した。

7.Xは、規則第2条に反することのみを理由として不許可とすることは違法であるとして、処分の取消を求め水戸地方裁判所へ提訴した。


【裁判所の判断】

「YがXに対し平成13年8月10日付でした墓地,納骨堂の経営許可申請に対する不許可決定を取り消す」

【判決理由より抜粋】

判決の理由付けの前提として、

「法10条1項は,墓地等を経営(設置,管理,運営)しようとする者は,都道府県知事の許可を受けなければならないと規定するのみで,同許可の要件について特に規定していない。これは,墓地等の経営が,高度の公益性を有するとともに,国民の風俗習慣,宗教活動,各地方の地理的条件等に依存する面を有し,一律的な基準による規制になじみにくいことにかんがみ,墓地等の経営に関する許否の判断を都道府県知事の広範な裁量にゆだねる趣旨に出たものであって,法は,墓地等の管理及び埋葬等が国民の宗教的感情に適合し,かつ,公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障なく行われることを目的とする法の趣旨に従い,都道府県知事が,公益的見地から,墓地等の経営の許可に関する許否を行うことを予定していると解される(最高裁第二小法廷平成12年3月17日判決・裁判集民事197号661頁参照)」

と、前々回の「(判例)墓地経営許可処分取消請求事件」
https://ameblo.jp/yu-hitsu2006/entry-12699374173.html

裁判所掲載文は
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/411/062411_hanrei.pdf

 

の前提部分を参照しています。

何度も出てきますがそれだけ判断する上で重要であるということです。

この前提をうけて、

「1 前提事実に前掲各証拠及び甲第1,第5ないし7号証並びに弁論の全趣旨を総合すると,Xは,本件申請に係る墓地経営について,従前から準備を進めてきており,Yもそのことを了知していたものであるが,Yは,Xの本件申請に対し,墓地の安定的な経営を行うに足りる十分な基本財産を有するか否か等を示す財産目録,貸借対照表,収支決算書等を提出するよう求めたこともなく,また,Xの本件事業に関する墓地造成計画や墓地の維持,管理計画について,資金的裏付けや将来にわたるその確実性の保障に関する詳細な裏付け資料,Xの活動の実績と安定性,Xの墓地経営事業分野における責任者等の組織,責任体制等の詳細,倫理性確保のための体制,利用者の権利や負担等に関する明確な契約案の存否,契約書案や説明資料の充実等々につき審査することもなく,専らXが本件規則2条に該当する団体でないとの一事をもって本件申請を不許可とする本件処分をしたことが認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
2 上記認定のとおり,本件処分は,専らXが本件規則2条に定める団体に該当しないとの形式的事由のみによって本件申請を不許可としたものであるが,原告の本件申請に係る墓地の経営事業について公共性,非営利性,永続性,必要性が認められるか否かに関し,原告の財政的基礎の確実性,責任を明確にした組織体制の有無,資金計画の確実性,墓地の造成,管理計画の適正等の実質的事由について何ら審査,判断されていない点において,違法たるを免れない。」


と、判示しています。


【ブログ主の雑感】

 ブログ主の感想を申しますと、

行政の許可権者は、申請者が経営主体に該当する法人等団体でないとの一事をもって不許可とするのではなく、前裁判例「(東京地裁)墓地経営不許可処分取消等請求事件」のような審査を尽くした(不許可理由)判断を出していただきたい
審査を尽くさなければやり直し


という判示であったと考えます。


 この裁判例の「第4 結論」には、

「Yに対し,第1次判断権を行使して前記実質的理由について審査させるため,本件処分を取り消す」

と書いてあります。つまり、墓地等の経営許可申請に対して、処分を取り消すので再度実質的審査事項を審査して結論を出しなさい、ということです。不許可処分を取り消すのみで、裁判所が「許可する」とは言っていないのです。「第3 当裁判所の判断」の3で、

    「申請にかかる土地を所有していない」
    「財産目録,貸借対照表,収支決算書等を提出しなかった」
    「当該墓地等を経営するに足る財政的基礎及び組織があるか否か」
    「確実な資金計画に基づく墓地造成計画及び墓地に関する適切な管理運営計画が策定されているか否かが不明」


とのYの主張も取り上げています。

具体的なこの部分をXに質問や補正させ、実質審査しなさいとYに伝えているものと思えます。

整理しますと、

経営主体として条例等に列挙されていない公益法人等(NPO法人)であっても、不許可処分をするには、実質的審査を尽くしなさい

という判示で、

経営主体として条例等に列挙されていない公益法人等(NPO法人)は、経営主体と認められる余地があるかどうか

を、論じたものでないことに留意が必要です。

この裁判例により、条例上経営主体とされていないNPO法人でも許可を受けられる余地があると、

早合点しては危険です。

 この裁判後について、後日談を含め実情を知りたいと思い調べてみましたが、

Web上では発見できませんでした。

 実情を知りたいと思ったのは、手続を行う一行政書士としては「???」

ハテナマークが出てきます。
・・・実務上どのように取り扱うか、戸惑うからです。例を挙げると、

Q) 経営主体として、墓地等経営に関し財務上等適格者といえるNPO法人が表れた場合、それを認めるか否か。

『相談者から「NPO法人であるが、財務上潤沢など経営資質はあるので、A市に墓地を経営したい」という相談があったとします。そのA市の条例等を確認すると、NPO法人は、経営主体に列挙されていません。』

 経営主体に記載されていないという一点で依頼をお断りしてよいものかどうか、

大いに迷ってしまいます。

上記判示でいえば、経営主体に記載されていないものの、

実質審査にパスできる素地はある。許可を受けられるのか、不許可となるのか・・・。

A) アンサーとしては、この例でしたら「A市に照会して判断を仰ぐ」ということになりましょう。

はなはだ難しい問題です。



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行政事件 裁判例集

事件番号     平成14年(行ウ)第5号
事件名      墓地経営不許可処分取消請求事件
裁判年月日    平成14年12月27日
法廷名      水戸地方裁判所
分野       行政

判示事項
  特定非営利活動法人が,墓地,埋葬等に関する法律10条に基づいてした,墓地,納骨堂経営の許可申請に対し,市長が,同法人は「潮来市墓地,埋葬等に関する法律の施行に関する規則」(平成13年潮来市規則22号)2条所定の団体に該当しないとしてした不許可処分が,その裁量権を逸脱する違法なものであるとして,取り消された事例

裁判要旨
 特定非営利活動法人が,墓地,埋葬等に関する法律10条に基づいてした,墓地,納骨堂経営の許可申請に対し,市長が,同法人は「潮来市墓地,埋葬等に関する法律の施行に関する規則」(平成13年潮来市規則22号)2条所定の団体に該当しないとしてした不許可処分につき,前記規則が墓地,埋葬等に関する法律10条による墓地等の経営主体を地方公共団体等一定の団体に限定しているのは,墓地等の経営が有する高度の公益性に照らして,健全な安定的経営を永続させるため,墓地等の経営主体の適格性について厳正な審査を求めることによって,利用者を保護することに主眼があり,単に形式的に法人の形態等を審査すれば足りるとする趣旨ではないから,前記申請に係る墓地の経営主体について公共性,非営利性,永続性,必要性が認められるか否かに関し,申請者の財政的基礎の確実性,責任を明確にした組織体制の有無,資金計画の確実性,墓地の造成,管理計画の適正等について実質的に審査することなく,申請に係る墓地等の経営主体が,単に公益法人や宗教法人でないという一事をもって申請を不許可としたのは,その裁量権を逸脱する違法なものであるとして,前記不許可処分を取り消した事例


裁判所掲載全文はこちら↓

 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/235/015235_hanrei.pdf