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SADについて調べたり実践したりする人のブログ

SADについて調べたり実践したりする人のブログです。

 
不死川兄弟。
 
 
 
 
 
要約
パニック症の認知行動療法は,不安障害の中で最も早期に確立され,その有効性が多く示
されている。今回,我々は予期不安が強く,外出困難となっていたパニック症の症例に対し
て,Clark らの身体感覚の破局的解釈の修正に焦点をあてたパニック症の認知行動療法プロ
グラムに,注意バイアスのシフトトレーニング,破局的自己イメージにつながる初期記憶の
書き換えといった社交不安症に関する Clark and Wells model の概念を加えた個人認知行動
療法プログラム(アセスメント2セッション,フォローアップ4セッションを含む,計20セッ
ション)を作成し,実施した。フォローアップセッション時に直面したストレスイベントに
より,改善していた症状が一時的に悪化したが,プログラムで習得したスキルを再確認した
ことで,プログラム終結後1年を経過した時点では良好な経過を示した。社交不安症の概念
を加えた介入は,パニック症の改善に有効であることが示唆された。
 
1.はじめに
パニック症(Panic Disorder;以下 PD)は,繰り返すパニック発作によって特徴づけら
れる,日常生活に多大な支障をきたす精神疾患である(APA 2013)。重症化すると,予期不
安が高まり,外出することさえ困難になる場合がある。
PD の認知行動療法(Cognitive Behavioural Therapy;以下 CBT)は不安障害の中で最
も早期に確立され,最近の9つのランダム化比較試験のメタ解析では,薬物療法より効果的
であることが示されている(Roshanaei et al., 2011)。
我々は平成27年度厚生労働省障害者対策総合研究事業「認知行動療法等の精神療法の科学
的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究」で,PD の CBT プログラム
を作成した(関・清水,2016)。このプログラムは,PD の身体感覚の破局的解釈の修正に
焦点をあてた Clark et al.(1997)のモデルを基盤に,安全行動,及び,注意バイアス,破
局的自己イメージと初期記憶,予期不安の反芻・心配などの社交不安症に関する Clark and
Wells(1995)の概念をパニック症に応用したことが特徴となっている。
本症例報告では,PD 患者に上記の CBT プログラムに基づき実施したセッションの実際
を報告する。
 
 
2.症例の提示
症例:20代女性 無職(以下A)
主診断:パニック症,広場恐怖症,併存疾患にうつ病がある
家族構成:父母との3人暮らし
主訴:予期不安が強くて,外出するのがこわい
現病歴:短大に進学した18歳頃から,突発的な胸部痛,動悸,過呼吸が出現し,数カ所の病
院で薬物療法を受けたが,改善せず通院を中断した。同時期,短大の実習で自信喪失体験が
続き,中途退学した。その後,上記症状が悪化し,さらに食事の際,砂を嚙むような感覚が
出現し,引きこもりがちな生活が3年半続いた。24歳時に新たにB心療内科を受診し,うつ
病と診断され,薬物療法で寛解した。以降,通院を継続しながら,アルバイトをしたが,通
勤時や仕事中に動悸,過呼吸に襲われ,長続きせず,うつ症状が再燃した。そのため,主治
医より,うつ症状の影響因であるパニック症状の改善を目的として,千葉大学附属病院
CBT 外来を紹介された。アセスメント面接でAは,短大時代に家の洗面所で「今,私,呼
吸してる?」と意識し過呼吸になった初期記憶を頻繁に想起していることがわかった。その
際,自分の注意(意識)が全部身体に向いていることが明らかとなった(注意バイアス)。

さらに,最悪の場合,窒息し倒れて死ぬという破局的自己イメージが存在していた。これら
のことから,Aには我々が作成した CBT プログラムが有効であると判断し実施した。
 
3.セッションの構造
臨床心理士である治療者(以下 Th)が,週1回,50分のペースで行った。薬物療法(オ
ランザピン2.5㎎,パロキセチン10㎎,デュロキセチン20㎎(夕食後),ロラゼパム0.5㎎(朝
食後))が並行して行われた。セッション中の処方変更はなかった。

4.評価尺度
パニック症の重症度は PDSS-SR(Houck et al., 2002;片上,2007),うつ症状の重症度
は PHQ-9(Spitzer, Williams & Kroenke, 1999;上島・村松,2011),全般性不安症状の
パニック症に対する注意トレーニングと初期記憶のイメージ書き直しを用いた認知行動療法
重症度は GAD-7(Spitzer , Kroenke & Williams, 2006;村松・宮岡・上島訳,2011)を使
用した。CBT 開始時,中間評価(行動実験2回実施後),最終評価(CBT 終結時),終結か
ら1,3,6,12か月後の6時点で測定した。
 
 
5.セッションの経過
1ss パニック症の心理教育(目標 パニック症の一般的な説明を理解すること) PD,CBT
の説明とともに,不安階層表の作成(Table 1),目標設定を行った。短期目標は『一人で
電車,バスに乗る』,中期目標は『再就職する』,長期目標は『飛行機に乗る』であった。


2ss ケースフォーミュレーション(目標 パニック症を維持する悪循環に気づく) Aが作
成した図は Figure 1で,仲の良い友人とランチに行く場面で,過去の記憶を想起し,身体
症状に注意が集中していることが明らかとなった。さらに,バスに乗る際の図を作成したが,
自動思考,不安症状・身体感覚,破局的な死のイメージ,安全行動は Figure 1と同様であった。
 
 
 
3ss 安全行動と注意の検討(目標 パニック場面における「安全行動と身体感覚への注意の
バイアス」が不安を高めていることに気づく)
Figure 1を用いて,2つの課題を設定した。
課題1は『仲の良い友人とランチ中に安全行動をしながら,身体感覚に注目する』課題2
は『課題1の状況で安全行動をせず,身体感覚にも注目せず,その場の雰囲気を感じる』

した。課題実施前に,両課題実施後の予想を検討した。パニック症状の起こる確率は,課題
1で30%,課題2では20%,最悪どうなるか?については,課題1では,呼吸に意識が向き,
友人と会話ができなくなる,課題2では,周りが楽しそうに食べているのを見て,私も食べ
られると思える,と回答した。課題実施後の振り返りで,実践中の不安は予想と比べると,
課題1は予想と同じくらい,課題2は予想より小さかったと回答した。また,課題1では,
用心できるメリットはあるが,自分で自分を不安にさせているデメリットが大きい,課題2
では,ランチの時間を楽しめるメリットがあり,デメリットはないと回答し,このセッショ
ンの目標にAは気づくことができた。
 

4ss 破局的な身体感覚イメージの再構成(目標 「内的情報に基づく破局的イメージ」と「客
観的に見た現実的イメージ」の違いに気づく)
2ss で作成したバスに乗る際の図を用いた。
まず,Aに混雑したバスの中で,つり革につかまっている状況をイメージしてもらった。A
は,身体に力が入って呼吸の仕方がわからなくなる、と語った。次に Th は,このイメージ
の意味を再構成する介入を行った。まず,息の仕方がわからなくなる根拠を尋ねたところ,
Aは「この10年で20回くらい体験したから」と答えた。Th は「仮に1年で20回体験したと
すると,1年間に体験する確率は約5.5%ですが、そう考えるとどうでしょう?」,「バスの中
で息の仕方がわからなくなるイメージが実際に浮かんだ時,その1時間後,10時間後のあな
たはどうなっていますか?」というイメージの再構成を促す質問をした。
その結果,先述の
イメージが引き起こす不安感は,セッション開始時の80%から70%に,呼吸の仕方がわから
なくなる確信度は,60%から50%へと若干低下した。
 

5ss 注意トレーニング(目標 身体感覚への内的注意を減らし,注意を柔軟にシフトできる
ようになる)
ここでは以下の2つの課題を実施した。課題1では『身体感覚(自分の呼吸
を強く意識する)と外部の情報(診察室の外の人の声)』,課題2では『身体感覚(混雑した
バスの中で自分の呼吸を強く意識する)と外部の情報(窓の外の景色)』にそれぞれ交互に
注意をシフトする練習を行った。
その結果,Aは外部の情報に注意をシフトしている時の方
が身体の力が抜けることを実感した。
 
 
6〜9ss 行動実験(パニック場面において持つ特定の予測が実際は起こりにくいことを実
感し,そのままの自分でも最悪の事態(死や狂気)にはならないことに気づく)
6ss は『Th
と過呼吸に伴う身体感覚疑似体験(30秒間息を強く吸って,強く吐く行為を繰り返し,その
パニック症に対する注意トレーニングと初期記憶のイメージ書き直しを用いた認知行動療法
後,何秒息を止められるかを測定する)』,7ss は『Th と1Fから5Fまで階段を一気に駆
け上がり,動悸の身体感覚を感じ,倒れてしまうという信念を片足立ちして検証する』,8ss
は『Th とバスに立って乗る』,9ss は『8ss の課題遂行後,快速電車に1駅区間乗る』,を実
施した。Aは各行動実験直前には不安を感じたが,パニック発作は出現しなかった。

各行動実験の概要を Table 2,3,4,5に示す。
 
 
10ss 身体感覚と結びつく初期記憶の書き直し(目標 パニック場面で繰り返されるイメー
ジと過去の記憶に振り回されないようになる)
短大時代の身体感覚と結びつく初期記憶(家
の洗面所で今,私,呼吸している?と意識した後、過呼吸になった記憶)
に関して,CBT
を通して,どのようなことが言えるかについて検討した。「今は過呼吸の疑似体験から,人
間は簡単に息ができなくなることはない,以前はすごく不安に思ったけど,今はそれほどで
はない」と語った。その結果,過去のイメージと初期記憶の苦痛度は50点から30点に,確信
度は20%から10%に低下した。
 
11ss 出来事の前後でやることの検討(目標 パニック場面の前後で,繰り返し考えること,
やってしまうことの悪循環を変える)
予期不安が強く,回避しがちな自宅近くの道を歩く
際の前後でやることの検討を行った。道を歩く前に,携帯電話を必ず準備する行動があり,
そのメリットは,助けを求められる,デメリットは,携帯電話があるから大丈夫と思いこん
でしまうと語った。また,道を通った後,いつ楽に通れるようになるのだろうと考え込む行
動があり,そのメリットは,練習を続ける原動力になる,デメリットは,折角問題なく通れ
ても今後のことが不安になってしまうと語った。Aはこれらの行動が症状維持因子であると
理解した。

12ss 最悪な事態に対する他者の解釈の検討世論調査(目標 恐れている最悪な事態や否定
的な予測が実際に起こったとしても,他者は必ずしも否定的に解釈しないことに気づく)

Aは『息苦しくなると窒息死すると思いますか?』という質問を作成し,両親,友人に質問
したところ,誰からも Yes の回答がなかったと語った。
この結果を元にこれまでの予測や
破局的信念を振り返った結果,今までは苦しくなったら,窒息死すると考えていたが,今は
苦しくなってもしばらくすると落ち着くと思えると語った。

13ss 残っている信念・想定の検討:スキーマワーク(目標 これまでのセッションでは反
証や変容が難しかった,残遺する信念に対して,柔軟な見方ができるようになる)
Aは,
CBT を受ける前の信念は『私のパニック症状は一生続く』だったが,今は『CBT を続けて
いけば治る』に変化したと語った。

14ss 再発予防(目標 セッションの振り返りと般化を行う) Aは CBT の総括として,最
悪時を100とすると今は20で,セッション開始前より予期不安が減ったことや,パニック発
作が起こっても窒息死はしないと思えると語った。セッション終結時点で不安階層表の80点
『快速電車に乗る』まで(50点『家に1人でいる』を除く)の課題,中期目標『再就職する』
まで達成した。セラピストとクライエントの間でセッション開始時の毎週1回14セッション
で終了するという治療契約を振り返り,改めて症状が十分コントロールできるようになった
と話し合い,14セッションで終結となった。不安階層表の50点『家に1人でいる』,90点『新
幹線に乗る』と100点『飛行機に乗る』(長期目標)の課題は,フォローアップセッションで
対応していくこととなった。

セッション終結時点で症状評価尺度はパニック症状の PDSS-SR が開始時の13点(中等度)
から8点(軽度)へと低下した。うつ症状の PHQ-9は9点(軽度)を維持,全般不安症状
の GAD-7も8(軽度)点から6点(軽度)と軽症を維持した。
Aは8ss 頃から事務職のアルバイトを始めたが,残業や上司のパワハラ等のストレスフル
な状況に陥ったため,1か月後のフォローアップセッション直前に退職した。3か月後のフォ
ローアップセッション時に「再就職が上手くいかず,自信を失い,再び動悸や過呼吸が頻繁
に出るようになった」と語った。この対策をアジェンダとして検討した結果,就職面接の前,
家の洗面所で過呼吸になった初期記憶を想起し,身体に過剰に注意が向き,不安を高めてい
ることがわかった。よって,5ss と10ss を復習し,その内容をホームワークとして再度実践
するよう伝えた。
この1か月後(セッション終了4か月後)に事務職の契約社員として採用
されたと,6か月後のフォローアップセッションで語り,現在まで順調に勤務を続けること
が出来ている。
 
 考 察
本症例報告は,予期不安が強いために外出困難となっていた PD に対して,我々が作成し
たプログラムに基づき実施した CBT の手順を紹介した。

これまで PD に対する CBT の有効性は論じられている(藤井ら,2008;首藤,2015など)。
また,PD に対する注意トレーニングの有効性も同様に論じられている(Wells,1990)。し
かし,安全行動,破局的自己イメージと初期記憶,予期不安の反芻などの概念を PD に応用
した CBT の有効性はほとんど論じられていない(Seki ら,2016)。

パニック症患者は,いつ生じるか予測不能なパニック発作への不安のために,注意の意識
が自分の身体感覚に集中していることを自覚出来ていないことが多い。
山田(2008)が,パ
ニック症は一種の PTSD である,と述べているように初発のパニック発作は非常にネガティ
ブなトラウマ(初期)記憶となることが多い。

今回のプログラムでは,2ss,5ss で注意バイアスに関する介入を行ったことで,Aは注
意の意識をシフトするスキルを身につけ,次に実践した行動実験でパニック症状を客観的に
認識できるようになっていった。そのことが10ss の破局的自己イメージに関連する初期記
憶の書き直しを促進させたと思われる。

しかし,本症例は,フォローアップセッション中の退職,再就職活動というストレスフル
なライフイベントのため,一時的に症状が悪化した。このような状態に陥ったにもかかわら
ず,その直後に CBT で習得したスキルを復習し,1か月後には再就職を果たした。このこ
とは,フォローアップセッションの重要性を示している。
 
 
ハリネズミミラーブログ(はてな)
ハリネズミ社会不安障害の認知行動療法の参考書

 

内気と不安を軽くする練習帳 (原書名:Overcoming shyness and social phobia)

社交不安の認知行動療法について、非常に丁寧に書かれている本。

「練習帳」の名の通り、社会不安を克服するためには地道なトレーニングが必要ですが、ひとつひとつ章立てて書かれているので、段階的にステップを登っていけます。自分の思考や行動を記録していくやり方の説明も明確でわかりやすく、具体的・実用的で、読むと励まされる本です。
 
 

社交不安障害 理解と改善のためのプログラム (幻冬舎新書)

人前で話すのが苦手、緊張して上がってしまう、自然に人付き合いができず、社交をつい避けてしまうという状態は「社交不安障害」と呼ばれる。もっとも頻度の高い精神的な困りごとの一つで、有病率は一割を超える。しかし、自分を縛る不安の正体を知って、有効なトレーニングを積めば、改善は十分可能だ。実際にカウンセリングセンターで使われるプログラムを紹介しながら、克服の方法を実践解説。

 

対人関係療法でなおす 社交不安障害 自分の中の「社会恐怖」とどう向き合うか

 

 

図解 やさしくわかる社会不安障害

具体的な治療法、不安にとらわれるメカニズムの解説などを解説した、SAD治療の入門書的な本。

わたしは数年前にこの本を読んだことがきっかけで治療につながれました。

 

 

 

ではではクマムシくん