将棋には「手筋」というものがある 。手筋とは、体操競技における「技」のことだと思うと、わかりやすいかもしれない。

手筋が実戦で綺麗に決まると、気持ちがいい。ましてそれが、床運動での連続技のような「流れるような手順」であれば、尚更だ。

本局はまさにそんな一局だった。

本局のポイント:手筋連発の端攻め

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【対局日】平成2年1月27日

【対局場所】東京将棋会館道場

【駒割り】平手
【持ち時間】無制限

【対戦相手の棋力】初段

【当方の手番】後手

【戦型】カニ囲い(vs雁木)

【手数】82手

【結果】後手の勝ち

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本局はお相手が「雁木」を採用する趣向に出た。当時はマイナーな戦法で、とっさの対応を迫られた小生は、カニ囲いという腰の低い構えからカウンターを狙った。

序盤に飛車先を歩交換して一歩を手持ちにしたのが大きかった。
その後、お相手も歩交換してきたが、その関係でこちらにも持ち歩が増える。そこにチャンスがあった。

【第1図】チャンスの局面

https://shogi.io/kifus/258125

 

ここで9五歩と端を突き捨てたのが、チャンスを物にした手。
「三歩持ったら、端に攻めあり」の格言を実行した手だ。
この時点では持ち歩の数は2枚だが、実は盤上にもう1歩落ちていたのを見逃さなかった。

9五歩以下、同歩、9七歩(垂れ歩)、同香、5六歩(一歩を補充)、同銀左、9六歩(たたきの歩)、同香、8六歩(十字飛車の歩)、同歩、同飛と進んで、第2図。

 

【第2図】技が決まった局面

https://shogi.io/kifus/258127

 

先手は9六の香車を助けることができない。よって後手の有利が確定した。柔道で言えば「有効」といったところか。

以下は先手の反撃にシンプルに対応し、わかりやすい局面に誘導して詰ませた。

 

=================【昔の記録に書かれた「まとめ」】=================

本局は、大熱戦の直後の快勝譜である。先手のT初段は、本道場の常連。5〜6局対局しているが、中飛車系統の戦法で自分の型をもっており、油断して痛い目にあったことが何度もある。

本局のT初段の作戦は、雁木。あの内藤國雄九段のお家芸である。しかし、4筋をつかないのがこちらの工夫。この方が当たりが弱く、一発を食いにくい。
本譜のハイライトは、お相手が歩交換をした直後の端攻めである。「三歩あったら端に攻めあり」の格言を地でいく手筋の炸裂で、一気に勝勢に持ち込んだ。後はわかりやすく一直線に寄せ切る。泥試合の直後だけに、颯爽とした展開が、快く感じられた。
(平成3年8月15日)

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【棋譜】

https://shogi.io/kifus/25812

(2024年1月15日)