まーさん「しかし神と言ったか」
我輩「ああ、言った」
まーさん「みにしげさんを、いや誰か或いは何かを神格化することは即ち自らの外部に自己の深層心理を投射することに他なるまい。そしてそれは自己による自我のコントロールを外部にアウトソーシングしたことに他ならず、動物としての欲望との闘いを放棄したことになるまいか。そして貴様は即ち敗者である」
我輩「それは宗教に言う神の定義である。貴女は全て正しいが、我輩が道重さゆみを神と称するのは、GODの意味ではない」
まーさん「ほう」
我輩「古来より日本人は神を頼るものではなく共存する自分より大きな存在と認識し、そこから他者を形容する言葉として神を使い続けてきた」
まーさん「天照大神もイチローも等しく神であると」
我輩「日本人の主観は、そうであるという意味だ。勿論客観的には違う」
まーさん「信仰の妥当性をどう考える」
我輩「皆目見当がつかないというのが本音だ。誰もが何かにすがらずにはいられない」
まーさん「まーはこう考える。人は弱さを認め、何かにすがらざるを得ないことを恥じるべきであり、信仰を捨てるべきである」
我輩「宗教は自己矛盾を孕んでいるということか」
まーさん「その通りである。しかし注意が必要だ」
我輩「ほう」
まーさん「これはまーたちが存在する世界を科学という側面から見た結論にすぎない。本当は、神話こそが正しい歴史なのかもしれない」
これを聞いた我輩は、えもいわれぬ恐怖に襲われた。
我らがリーダーである道重さゆみが卒業を発表する前日のことである。
時は過ぎ去る。
11.5期として加入した我輩は、日に日に迫る道重さんの卒業に焦りを隠せなかった。
そして12期の加入。
人はこう言う。
「もう12期かよ!メンバー誰も知らないなー!」
我輩は少し不思議だった。
言葉に?
いや、言葉の裏に隠れた卑下の眼差しがだ。
鞘師さんは「嫌なんだよね」と呟いた。
その夜、道重さんと鞘師さん、そして暗黒執行官たる我輩ジャッククレバーによる三者会談(怪談というべきか)という名のお食事会が開かれていた。
「どういうこと?りほりほ」
「今のメンバーがわからないってことと、それを驚くことが、なんか...」
「因果関係の話であろうか。今のメンバーがわからないというのが社会の現状である。それは無関心に由来するものである。しかし人はそれを、あえて驚く。盛者必衰を笑うのである。自分では気づかない優越感に浸りながらだ!」
「ちょっと、ジャックちゃん落ち着いて」
「奴等の驚いた顔の裏にはこう書いてある!あんなに人気だったモーニング娘。も落ち目なのねと!そしてほくそえんでいるのである!絶対にだ!あの汚ならしくベトベトした粘着性のある自己愛を満足させ、自分は傍観者であると身分を偽るのだ!死ね邪の者よ!死んでしまうがいい!」
「頭に蛆でも湧いたのかしら...」
「でも、大体合ってます。友達からそう言われます」
「ラジオでも言ってたわね」
「そうなんです...たまに、それが辛くて」
「我輩がいるではないか」
「あらやだまだ蛆が湧いてるわ」
「ありがとうジャックちゃん。でもね、道重さんが卒業...するじゃないですか。その後、どうやっていければいいんだろうって」
「我輩も同感だ。廃れたフランチャイズを見ているような気持ちになる」
「やだ蛆が喋ってるわ」
「まだまだ、悩んでます...アタシ、力になれてるのかなって。エースって呼ばれて、どうなんだろうって」
「鞘師さん、こう考えてみては如何であろうか」
我輩は我輩の天使にゆっくりと語りかけた。
「真実を見つめれば絶望には違いあるまい。もう一度全盛期が来るなどという幻想すら馬鹿馬鹿しい。これをチャンスだと思う者も愚かしい。同じ眼鏡をかけ続ける限り、何も見えはしない。しかしだ、かつての黄金期、これほどまでに海外で評価されたことはあったろうか。欧米諸国の話だ」
「うーん、どういうこと?」
「市場が変わりつつあるということだ。競業者が誰も居ない未知のフィールドに。つまり我輩達モーニング娘。を待っているのは日本ではないということだ」
「あのね、りほりほ。モーニング娘。はハッキリ言って別物になりつつあるわ。でも飛びきり可愛い子という着ぐるみを脱いで、私たちはショーとして完成されたものを追求している」
「その方向性でいいのだ。心配することはない。道は開けている。我輩達は進むだけだ。鞘師さん筆頭にな」
我が心の天使りほりほはそっと頷いた。
「世界は祝福されているのだ。あのようにな」
我輩の指差す先には一組のカップルが口づけをしていた。
「悪いものでもないのだ。この世界は。この先は。美しい愛に溢れている。人々に気付かせてやるのだ。この世界は美しいと」
我輩達の視線は、階下のカップルに注がれている。この世界で繰り返されるこうした些細な出来事が、この世界が愛に溢れている証左なのだ。
やがてカップルは別れて歩き出す。お互いを名残惜しみながら。
それが乃木坂の松村さゆりであることは、この後知ることになる。
完