親愛なるTさんへ

 

私は20年前のあなたに手紙を書くつもりで

 

今日は久々にブログを書きます。

 

 

 20年後のあなたは

 

月1回、私の外来に通ってくれています。

 

特に身体に大きな問題はなくて

 

少し定期的なお薬があるくらいです。

 

 

あなたは、とても優しくて

周りに気を使う方です。

 

 

周りに色々、気を使うから

ちょっと疲れちゃうことが結構あって

 

それを外来で話されています。

 

私は内科なので、あっさり診療が終わる事も多いけど、あなたとは、よくお話しています。

 

いつも帰り際に

『先生と話すと安心します』とおっしゃってくれます。

 

 

 

あなたが私の外来に通って、2年以上たった、ある日

 

小さい頃の病気の話になりました。

 

ご自分の小さい頃の病気の話をした後に

 

あなたは小さい頃の生活について

語り始めました。

 

お父様、お母様、ご兄弟の話

(ここは、かなり個人的なので書きませんが

色々複雑なご事情もありましたね)

 

そして

『父は絵描きだった。私も絵描きに

なりたかったけど、、、父に反対されたから、辞めた』

 

『父が、女の絵描きなんて

ロクなもんじゃない、と反対した』(注:かなり昔の話です。現代とは違います。またお父様なりの考えがあったのでだとは思います。)

 

と、今まで見た事ないような

悔しそうな表情で話されました。

 

なので私は

『Tさん、今からでも絵描きには、なれますよ。今はインターネットが発達して、ネットショップで絵も販売出来るんです。今からでも、誰でも絵描きになれるんです』

 

と言いました。

 

すると私の予想以上の

 

やっぱり今まで見たことも無いような笑顔で

 

あなたは言いました。

 

『そうですね!先生、今からでも絵描きになれるんですね。絵を描いてみます!』と。

 

 

1か月後

あなたが外来に来るであろう日に

あなたに会うのを私は楽しみにしていました。

 

普段、患者さんに何かをあげることは無いんだけど、特別に、たまたま家にあった塗り絵

(綺麗なお花を塗る、塗り絵でした。)を持っていっていました。

 

けれど

 

あなたは外来に来ませんでした。

 

 


次の週に

 

あなたのケアマネさんが外来に来て言いました。

『Tさん、認知症の症状が進んでるみたいんなんです』

 

私は本当にショックでした。

 

普段、外来で定期的に接している方だと

認知症の症状が出てくる時は

 

大体分かるのです。

 

(注:認知症の方のご家族が気を害したら、申し訳ありません。決して認知症自体を否定する内容では、ありません。)

 


でも、Tさんに関しては、

そのケアマネさんに言われるまで

 

全く認知症の症状を認めていなかったのです。

 

 

『せっかく夢であった、絵描きの道が始まるタイミングなのに。

夢に間に合わなかったのかな』というような複雑な思いが残りました。

 

 

その次の週に

外来に来たTさん、あなたは言いました。

『先生、薬の数が数えられなくなりました。』と

 

そして、夢であった絵のことを語る事はありませんでした。

 

 

 

Tさん、あなたの人生は良い旦那さんとお子さんにも恵まれ、優しいお嫁さんもいたし、立派な家もあるし、本当に十分に幸せだと思うんです。


 

でも、

 

たまたま、あのタイミング

 

あなたの認知症の症状が出る直前に

 

『あなたの夢』の話を聞いて

『あなたが夢に間に合わなかった』と私が感じてしまった事は

 

何かのメッセージ、導きでもあるのかな

 

と思うのです。

 


 

私は、20年前のあなたのような人に

 

接して

 

例え、親御さんや

周りの人に反対されたことが

 

あっても

 

『あなたが人生を切り開く力』(パワー)を

 

取り戻して

 

『夢』を叶えて欲しいと

 

思うのです。

 

 

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