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ドラマ一筋!鴨下信一とっておき話(4)
1981年8月22日に飛行機事故に遭遇し、51歳の若さで帰らぬ人となった小説家、向田邦子さん。生誕80年にあたる今年秋、向田さんの作品「母の贈物」を原作としたドラマがテレビと舞台で甦る。テレビの演出は大ベテランの鴨下信一氏(73)が務める。
「母の贈物」の映像化は初めて。結婚式前日の新郎新婦にふりかかる互いの母の騒動から「親子」や「女」「母」が描かれる。
撮影は、けいこ、撮影ともに、それぞれ1週間が費やされた。出演者の1人、石坂浩二が会見で「映画ができてしまう」と話すほどの時間のかけ方だ。
撮影はCGに頼らずオールセット。鴨下氏は、「お金のことには、タッチしてないからわからない。石井(ふく子)プロデューサーが帳尻を合わせてくれるでしょう」と笑う。路地もリアルな東京の下町を再現した。
「2カットだけ。ちょっとしか使わないから目に留まる。なんべんも使ったらその効果はなくなってしまうから」
夜空に浮かぶ月が美しく見えるように計算された大セットには、鴨下氏のドラマ哲学がのぞく。
花婿役には、KAT-TUNの中丸雄一が抜擢された。小道具の細部にも工夫を凝らされている。制作スタッフが明かす。
「上着が部屋の壁にハンガーに掛けられているシーンで、内ポケットに何もなかった。鴨下さんは『会社員の内ポケットには、ボールペンがあるだろう』と言われまして」
鴨下氏は、中丸をこう評した。
「舌を巻くほどうまい。俳優としてのセンスがある。高いところが苦手で、臆病なところがあって、ドラマでもなかなか自信が持てないようだが、かえってそこがいい」
中丸が泣く場面。台本で、セリフ以外の情景を書いたト書きには≪洗面所に入ってきて泣く≫とだけある。鴨下氏は、「立って泣くのは大変だから、最初は自分の太股に手を当ててから、どこかにつかまったらどうか」とアドバイスをしたという。
すると、中丸は洗面所に入った途端、まず大声を上げて泣き始め、両手を太股に当て、倒れるように物をつかんだ。声をうまく使い、泣く行為を際立たせたのだ。
「ふぞろいの林檎たち」の中井貴一、「高校教師」の真田広之、「カミさんの悪口」の田村正和、「理想の上司」の長塚京三など、鴨下ドラマに登場する役者は、リアリティーがある。今回はどうだろうか。
テレビはTBS系で9月14日午後9時放送。舞台は東京・三越劇場で、10月4-13日に上演。