「サバニ」とは、沖縄(ウチナー)の海人(ウミンチュ)が主に漁業に用いた伝統の小舟のこと。動力船の台頭に押され、10年以上も前に、ほぼ絶えていた。



 が、父祖の伝統を忘れまいと、そんなフネに再び命を吹き込み、あるいは新造して臨むレース大会が始まり、今年で10回を数えた。



 順風の昨年はトップ艇「ざまみ丸」が3時間3分の新記録。6月28日、沖縄・座間味村-那覇港(約40キロ)で行われた今回は、TOKIOの山口達也が乗り込む日テレ系「鉄腕ダッシュ」のチームを含め過去最多の44艇が参加した。



 スタートの座間味村は那覇の西約40キロに浮かぶ島だ。琉球王朝時代、首里の王の命を受けて唐(支那)に進貢する使者は毎回、行き帰りにここに寄港し、礼服と遠洋航海にそぐう身なりに着替えた歴史がある。



 しかし、忘れてならないのは1945年3月、座間味を含む慶良間各島が連合軍による沖縄戦の最初の攻略目標となったことだ。そして敵軍が上陸を開始した26日、集団自決の悲劇が起きたのだった。



 敵軍の犠牲者約700体が校庭に仮埋葬された座間味国民学校は現在、同名の幼稚園、小学校、中学校となっている。その中学生26人全員が、「海学校」の帆をふくらませて今年もサバニレースにチャレンジした。挑戦は7回目。昨年は順風をしっかりつかまえて自己最高の16位に入った。



 「少なめだったけど、ちょっとキツい練習をこなした。チームワークが大切だと思う。昨年より上位をめざしたい」と話したキャプテンの中村宏太君(3年)らを評して、サバニ担当の許田恵先生(40)は、「いやあ。彼らはこの辺の海のどこで落としても大丈夫。場所を把握していて帰ってこれますよ。一緒に釣りをしていても、アタリへの反応が違いますもん」と全幅の信頼を寄せていた。卒業予定8人中3人は沖縄水産高が志望という。



 レース当日。好天に恵まれすぎて風が落ち、新記録の更新はならなかったが、島の男チーム「海想」が優勝、その妻たちの「女海想」が3位と大健闘。海学校は27位とちょっと悔しい結果だった。でも「卒業して島を出て行くとき、一番の思い出、誇りとなりますよ」と浜元朝純校長(52)は笑っていた。



ZAKZAK 2009/07/23