天才スケボー少年S君。

世界大会での成績は、まあ、中途半端に終わり、

それ以降は注目されることはなく、

月日は流れ、S君を知る人はほぼいなくなった。

 

とある倉庫作業会社。

昼休みの休憩ルームでは、若者が2人、

大盛りの弁当を食べながら、

こんな会話をしていた。

1人は背の高い、両腕にタトゥーシールを入れている。

もう1人は、やせ形で、頭にニット帽を被っている。

 

タトゥー、「なあ、今度来たじいさん、あれ使えんのかよ。」

ニット帽、「重いもんは無理だよな。

聞いた話だと、何か、スポーツやって、腰痛めてるらしいな。」

タトゥー、「どうせ、すぐ辞めんだよな、ああいうの。」

ニット帽、「そうだよな。」

タトゥー、「一緒の作業になったら、プレッシャーかけよう。

俺よ、ああいうの見てると、イラつくんだよ。」

 

はい、弱いものが、さらに弱いものを叩く、典型的なイジメが

まさに始まろうとしている。

そんな会話をしていると、S君、まあ、今ではSさんだが、

隣のテーブルに座った。

 

ちょっと、気まずい空気になったが、

ニット帽がS君に話しかける。

 

「Sさんって、なんか、スポーツやって、腰痛めてんですか?」

「あ、ああ、まあね。先週、ちょっとやりすぎてね。」

「何やってるんすか?ゴルフとかっすか?」

「いや、スケボー。」

 

「えっ!」

「は?」

 

タトゥーがニット帽を指さし、

「こいつも、やってるんすよ、スケボー。結構うまいっすよ。」

 

「ほう、そうなんだ。やってる人がいるって聞くと、うれしいね。」

 

「えーと、何だっけ、ジャンプ?飛ぶやつ。Sさんもやれるっすか?」

「ああ、オーリーね。今だと50cmくらいしか飛べなくなったなぁ。」

 

「えっ!」

「は?」

 

「えっ、最高でどのくらい飛べたんすか?」

「70は普通だったよ。」

 

「…」

「大会とか、出たことあるっすか?」

 

「何回か、世界大会ね。8位がベストで、中途半端だったよ。」

 

「…」

「…」

 

「まあ、自分は普通の人間だったからなぁ。

周りはそうは見てなかったけど。」

 

「普通の人間でも、そのくらいになるんすか?」

 

「ん~、普通だから、そのくらいになるんじゃないのか。

普通じゃなければ、すげ~高く飛べるか、途中で挫折かな。」

 

「途中で挫折が普通じゃないっすか?」

 

「頑張り続けんのが普通じゃないのかい?オレはそう思ってるよ。

人生さ、普通以下で終たくないだろ。」

 

昼休憩が終わり時間に近づいてきた。

それぞれが片づけをして、作業場所に向かい始める。

 

タトゥーがS君の背中を見ながら、話しかける。

「あ、あのう、Sさん。

こんな俺でも、今からスケボーしたら、上手くなれっすか?」

 

S君は振り向いて、

「ああ、誰にでもチャンスはあると思うよ。

ただ1つだけ。

常に普通を目指せ!これが本当の自分なんだ!と信じることかな。

これを忘れなければ、できるようになるさ。」

 

S君は体を戻して、自分の作業場に向かっていった。

 

<了>