もう16年前にもなる。

 

生まれて初めて、精神科の専門病院、

要するに「精神病院」に行った時のことだ。

 

まさか、自分がこういうところに来るとは

夢にも思わなかった。

「絶望」、おそらく、この言葉が一番似合っただろう。

入口の前で、全身で震えていたのは今でも記憶にある。

 

病院にしては、建物が古く、簡単に言うと、

田舎の、昭和に木造で建てられた診療所という感じだった。

 

言われるがままに手続きをし、

言われるがままに診察室に通された。

中は薄暗い。

午前中の診察で、晴れてもいるので、照明は点けないのだろう。

 

そんな中で、自分の診察が始まった。

今となっては、何を聞かれたのか、記憶にない。

何を言ったのかも、記憶にない。

ひたすら、自分の状況を語っていたような気がする。

 

今となっては、医師の顔は覚えていない。

その名前も、覚えていない。

ただ、男性医師だったことだけが確実なくらいだ。

 

抑うつ神経症。

 

この日に言い渡された診断名だ。

(最近では「気分変調症」と呼び方が変わった)

 

それが何なのか、

どういうものなのか、

適切な診断名なのか、

さっぱりわからないまま、診察が終わる雰囲気になってきた。

 

この時、医師からこう言われた。

 

「あなたが思っている以上に、世界は楽しいものですよ。」

 

心と身体が乱れた自分に、

気休めのために言ったのかもしれない。

もし、その医師に、自分にこう言いましたよね?と尋ねても、

「そうだっけ?」と言った医師も記憶がないのかもしれない。

 

しかし16年たった今でも、

自分には妙にこの言葉が引っかかっている。

 

その医師による通院はわずか数回で終わり、

ここから約10年は、精神科に関わることはなかった。

 

10年後、再び通院せざるを得なくなったその病院は改築され、

充実した設備になり、以前の面影は全くなくなっていた。

 

ここから6年。

いろいろな診断名を言い渡され、今に至っている。

 

状況としては、16年前と何も変わっていない。

 

だが、同じ状況であっても、

当時とは全く違っている自分になっている。

 

心に傷を負い、人間不信になりながらも、

一日一日、全力で生きて、

常に「反省」と「改善」を対にした「努力」を続け、

あの時の「絶望」というものが消えている。

「充実」、おそらく、この言葉が一番似合うのだろう。

 

最近では、自分の中でこんな気持ちになることがある。

 

「自分が思っている以上に、

世界は楽しいものかもしれない。」

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今日はこの精神病院で診察をしに行ったのですが、

主治医が休みであることが、病院に着いてから知らされました。

何もないまま帰宅するのかと、沈んだ気持でしたが、

病院の駐車場に、風情良く、雨に打たれているモミジに心が留まり、

とりあえず、シャッターを切りました。