上場企業の財務体質の改善が進んでいる。手元資金が有利子負債より多い「実質無借金」の企業は2016年度末時点で2016社と前年度に比べて60社増え、初めて2000社を超えた。17年度も清水建設や東ソーが実質無借金に転じる見通し。経営の安定につながるものの、設備投資やM&A(合併・買収)など資金の有効活用が問われそうだ。

日本経済新聞社が金融などを除く全決算期の上場企業を対象に集計。各年度の現預金や短期保有の有価証券といった手元資金から、借入金や社債などの有利子負債を引いた「ネットキャッシュ」を算出した。

 実質無借金の企業が上場企業に占める割合は昨年度で58%と、前年度から1・6ポイント上昇した。

 背景にあるのは企業業績の改善だ。3月期決算企業の17年3月期の連結純利益は過去最高となり、最高益企業が全体の3割近くにのぼった。増えた手元資金を有利子負債削減に振り向けた。18年3月期も過去最高益を更新する見通しだ。

 16年度に新たに実質無借金に転じたのは142社だった。このうち、手元資金から有利子負債を引いた「ネットキャッシュ」の前年度と比べた改善額をみると、上位は建設会社が目立つ。改善額の首位は鹿島、2位が長谷工コーポレーションだった。市況が好調だったクラレやダイセルなど化学会社も改善した。

 今年度も財務体質が改善する企業は広がりそうだ。清水建設は今年度中に実質無借金となる見通しだ。1987年3月期の連結決算への移行後で初めて。バブル期の不動産開発投資が裏目に出て有利子負債はピークの93年3月期に1兆円超まで膨らんだが、今期は約3400億円まで減る。

 東ソーも今年度に実質無借金に転換する見通しだ。前年度にアジアのインフラ需要拡大を受けてウレタン原料や塩ビ樹脂の出荷が伸び、現金収支が大幅に改善した。今年度も前年度に続いて取引銀行からの借り入れの返済を進める。

ただ、手元資金を必要以上にため込めば資本効率が悪化し、自己資本利益率(ROE)の低下につながる。低ROE企業に対しては投資家の批判が強い。設備投資やM&Aなど成長戦略に加え、増配や自社株買い拡充といった株主還元策が問われそうだ。
2017/06/13  日本経済新聞 朝刊

2016年度に「実質無借金」に転換した主な企業(年度末、億円)  
2015年度末比改善額 金額 
鹿 島 1,378 114 
長谷工コーポレーション 852 632
TDK 806 523 
大日本印刷 586 415 
マツダ 538 355
日本精機 513 397 
戸田建設 456 208
SCREENホールディングス 385 312 
クラレ 343 307
東洋製缶グループホールディングス 303 101 
キッコーマン 300  2
ダイセル 291 246
五洋建設 205 127 .
ユニプレス 153  91
森永製菓 134 129