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 マイナス金利政策の導入から半年。企業の資金調達戦線に異変が生じている。空前のカネ余りが生んだ一時のあだ花か、それともファイナンスの新常識となるのか。 「ここまで来たか」。今月、ソフトバンクグループの起債ニュースを聞いたクレジット関係者はつぶやいた。驚いたのは、従来の常識を覆すその手法と規模だ。近々「ハイブリッド社債」と呼ばれる債券を発行し1兆円を調達、3兆円超を投じる英社の買収資金の一部に充当する。約12兆円の有利子負債を抱え、格付けはシングルAマイナス(日本格付研究所)の同社。一段の悪化が必至の財務への打撃を和らげようと選んだ手法だ。

 自動車でも使われるハイブリッドとは「異質なものの混成物」の意。金融の場合、資本と負債の中間的な位置づけを意味する。貸借対照表上はあくまで負債だが、格付け会社の判断で一定割合が資本と見なされ格付け悪化を防ぐ効果がある。
 債務の弁済順位が低い代わり、利回りは高くなる。中身は一般的な劣後債や劣後ローンと同じだが、重要なのは呼び方の違い。経営再建資金のイメージが強い劣後調達が「ハイブリッド」になった途端、人気化した格好だ。調達額の合計は今年8月時点で約4兆8000億円と既に前年通年の実績の倍近くになり、ソフトバンクの1兆円を除いても過去最高だ。
 三井物産や丸紅など商社に加え、日本通運や出光興産、オリックスなど顔ぶれも広がっている。「劣後と言うと後ろ向きのイメージだが、当社は前向きな成長資金の調達」。オリックスの担当者は強調する。
 広がる市場の背景には、資金を調達する企業と出し手である投資家の思惑の一致がある。
 日本企業は従来、返済不要かつ財務強化に役立つ資本での資金調達を好む傾向があった。だが、公募増資などのエクイティファイナンス(新株発行を伴う資金調達)は一株利益を希薄化させ、株価の下落圧力となる。自己資本利益率(ROE)重視の流れが勢いを増す中で、厚すぎる資本は重荷へと転じた。
 一方、負債の調達コストはマイナス金利下で一段と低下している。60年という長期の借入期間で三井物産などダブルA格の調達金利は1%台。ソフトバンクのハイブリッド債も年3%程度に抑えられる見通しだ。
 それでも利回りを渇望する投資家の目には十分魅力的に映る。オリックスのハイブリッドローンには、幹事の三菱東京UFJ銀行の下、全国の金融機関28社が協調融資で名を連ねた。「ハイブリッドローンが欲しいという地銀は多い」(三菱東京UFJ)
 企業は低コストで疑似資本を手に入れ、投資家も1%超の利回りを確保できる。両者を仲介するのが、格付け判断時に債務への資本性を認定する格付け会社だ。いわば三位一体が可能にした「いいとこ取り」の構図。 だが本来、メリットはデメリットと背中合わせのはず。メリットだけに焦点を当てる今のハイブリッド市場は、マイナス金利という微妙なバランスの上に浮かんでいる。