12月22日、アメリカのマクドナルド本社が日本マクドナルドホールディングス(HD)の株式を売却し、日本における経営から撤退することを検討しているという衝撃的なニュースが流れました。報道によれば、およそ50%の保有株式のうち最大33%を売却し、日本マクドナルドHDの再建を他社に託す検討を始めているというのです。その背景には日本マクドナルドHDの長引く極度の不振があります。同社は、原田泳幸氏が社長に就任した2004年から連続で増収増益という快進撃を続けたものの、2011年の東日本大震災を境目に消費者の大きな変化に対応できず苦戦するようになります。業績不振の責任を取って原田氏は退任に追い込まれ、後任として復活を任されたのが現社長のサラ・カサノバ氏。ところが、カサノバ氏が社長に就任して間もなく、同社に激震が走ります。

 14年7月には原材料を仕入れている中国の業者で消費期限切れ鶏肉が使用されていた問題が発覚。そして15年1月に入り、商品に異物が混入していたという報告が相次ぐことになるのです。

 現代の消費者にとって、お店を選ぶ基準として「食の安心、安全」が重視されるなかで、不祥事によるイメージ悪化によってマクドナルドを敬遠する顧客が後を絶たず、今年11月まで実に31カ月連続で顧客数が前年同月比マイナスを記録するなど、顧客離れに歯止めがかからない状況が続いているのです。

昨年の同時期決算では売上総利益は194億円の黒字を計上して正常な状態でしたが、この1年で売り上げが347億円も減少したにもかかわらず、売上原価は126億円の減少に留まり、売上総利益が221億円も減少することにつながっていったのです。

 また、負債を見ると、借入が急増しているのが目立ちます。前年同期は長期借入が5億円と無借金経営といっても過言ではない水準でしたが、今期は短期と長期を併せて212億円の借入の残高があり、この1年で実に207億円も増加しているのです。

 一方、借入で巨額の資金を調達した割に、手元の現金は132億円と前年同期の286億円から154億円も減少しているのも気になります。第3四半期の決算短信にはキャッシュフロー計算書が添付されていないため推測になりますが、調達資金は巨額の赤字の穴埋めや店舗に対する設備投資などに消えていったのでしょう。

 さらに2年前まで遡ると452億円もの現金を保有していたことを考えれば、ここ数年で大幅なキャッシュの流出が続き、現状手元に残っているのは巨大企業にとっては心許ない水準といっても過言ではありません。今期の平均月商は115億円であることから、わずか1カ月ちょっとの売り上げ分ということになるのです。

 今後も赤字基調が続くなら、手元の現金と新たな借入で経営をやりくりしなければなりませんが、金融機関から借り入れられる額には限界があります。恐らく現状の売上規模や資産内容では、400億円から600億円程度が上限だと推測しますが、万が一来期も業績が上向かずに巨額の赤字を計上するようなことがあれば、借入でも賄えずにキャッシュが底をついて経営破綻することも、100%ないとは言い切れないのです。

 そのような危機的な状況に陥った際の最後の頼みの綱は、現在およそ半数の株を握るアメリカ本社であり、増資などで巨額の資金を日本マクドナルドHDに投入して最悪のシナリオを回避する必要があります。

 このような事態に陥らないためにも、アメリカ本社は現状の株価で1000億円にも達する株式を適切な機関に売却し、株価下落による損失を回避すると同時に経営再建を任せたほうがよいと判断しても、決して不思議なことではないというわけです。

日本マクドナルドホールディングス(HD)は2月9日、2015年12月期連結決算の最終損益が347億円の赤字(前年同期は218億円の赤字)と発表、01年の上場以来過去最悪を更新した。14年夏以降に発覚した期限切れ鶏肉の使用問題や異物混入問題などで業績が悪化し、回復のめどが立たない状態だ。

 マクドナルドは、もはや打つ手はないのだろうか。市場関係者や経済界では、再生は難しいという声が多数派だ。確かに、最終損益だけを見れば再生は不可能なようにも見える。しかし、徐々にではあるが状況は改善しつつある。
 たとえば、売上総利益がプラスに転じたことは評価できる。売上総利益とは、売上高から売上原価を差し引いたものをいう。15年第2四半期では57億円のマイナスだったが、それが通期では1億円のプラスとなった。

 ただ、プラスとなった要因としては、「フランチャイズ収入」から「フランチャイズ収入原価」を差し引いた金額の7億円の影響が大きい。直営店の売上総利益は6億円のマイナスで、直営店は依然として原価割れを起こしている。マクドナルドの直営店の売上原価は材料費がすべてではないため一概には言えないが、直営店ではハンバーガーなどの商品を売れば売るほど赤字になる可能性が高いという厳しい状態である。

 ここからわかるのは、これ以上の価格帯の引き下げを行っては経営が成り立たないということだ。売上総利益を上げる必要がある。そのためには利益率が高い商品を開発し、ある程度は高価格帯の商品も販売していかなければならないのだ。特に、競合他社と差別化を図る上で、ハンバーガーの新商品のヒットは必須といえる。
 ここ数年、マクドナルドの商品戦略は混迷を極めていた。以前であれば、「えびフィレオ」「メガマック」「てりたまバーガー」「チキンタツタ」「月見バーガー」など、多くのヒット商品があった。しかし、ここ数年でヒットした商品を挙げることは難しい。商品戦略は方向性を見失い、そもそも期限切れ鶏肉の使用問題や異物混入問題以前に、すでに低迷し始める要因となっていた。
 マクドナルドはこの1年で商品戦略を大きく転換しようとしていることが読み取れる。「アメリカンテイスト」から「国産」への転換だ。14年には“古き良き時代のアメリカ”をコンセプトとしたメニューを提供する「アメリカンヴィンテージ」キャンペーンを行い、15年の前半には「ハワイ州観光局公認」メニューの「ハワイアン バーベキューポーク」や「ロコモコバーガー」を販売するなど、「アメリカンテイスト」のメニューを大きく打ち出していた。少し時代は遡り、10年~12年にかけて計3回「Big America」キャンペーンを行っていたこともある。

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