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 国税当局が富裕層の課税強化に乗り出している。1月に所得税や相続税の最高税率を引き上げ、7月には有価証券1億円以上の保有者の海外移住による課税逃れを防ぐ「出国税」を導入した。国の借金が1000兆円を超えるなか、「取れるところから取る」という強い姿勢が垣間見える。国税当局が注視する富裕層(大口資産家)とは。その選定基準が取材で明らかになった。
国税庁は、職員向けに税務調査の事務マニュアルに当たる「個人課税事務提要(事務手続編)」という文書を作成している。主な基準は「経常所得の合計金額1億円以上」「相続(遺贈)財産5億円以上」「有価証券の年間配当等の収入金額4千万円以上」「所有株式800万株(口)以上」「貸金の貸付元本1億円以上」など。

 「継2(けいに)」。税務署では大口資産家の資産状況などの資料を「継続2管理事案」という区分で管理するため、大口資産家はそう呼ばれている。ある国税OBは「各税務署は継2の『個人調査ファイル』を作り、資産状況や資金の流れを厳密に管理している。東京都心なら1税務署当たり500件以上はあるはずだ」と明かす。

 税務署の調査官は、「確定申告書」や所得2千万円超の納税者に提出を義務づける「財産債務明細書」、金融機関などが個人との取引内容を報告する「支払調書」などの資料を基に対象者を抽出。その中から保有資産の収益性や流動性が高い人物を重点対象としてリストアップし、「7年一巡」を目安に税務調査しているという。

では、大口資産家は国内に何人いるのか。正確な統計はないが、2013年の国税庁の申告所得税標本調査によると、申告納税者のうち所得1億円超は約1万6千人。高額の財産を相続した人などを合わせれば、国内の大口資産家は「少なくとも2万人は超えている」というのが国税OBらの共通した見解だ。

 所得1億円超の納税者は、約623万人の納税者全体のわずか0.3%にすぎないが、納めた所得税額は全体の18.3%に当たる9820億円に上った。富裕層は国内外に資産を持ち、高度な節税対策を講じているケースが多いため、国税当局は税務調査の体制も強化している。

 各税務署では約10年前まで所得税などを担当する「個人課税部門」と、相続税などを担う「資産課税部門」が別々に大口資産家を調査し、選定基準もバラバラだったとされる。しかし、個人の資産運用の国際化と多様化が進むなかで縦割りの弊害を防ごうと、今は選定基準を統一し、資料は一元管理している。

 国内外に数十億円規模の資産を持つ「超富裕層」については、昨年7月から東京、大阪、名古屋の各国税局に専門チームを設置し、部門を横断して情報を収集している。

 富裕層の節税対策などを手掛ける田辺国際税務事務所の田辺政行税理士は「大口資産家の選定基準が将来下がる可能性もある。締め付けの厳しい日本から税率の低い新興国などに脱出する富裕層は今後も増えるだろう」とみる。国税当局と富裕層の「にらみ合い」は始まったばかりだ。