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日本マクドナルドホールディングスは7日、平成26年12月期の連結最終損益が170億円の赤字に転落する見通しを発表した。仕入れ先だった中国の食品会社が品質期限切れの鶏肉を使っていた問題で売り上げが落ち込み、対応にかかる費用も膨らんだ。最終赤字は15年以来、11年ぶり。
 サラ・カサノバ社長兼最高経営責任者(CEO)は同日の記者会見で、「この結果を大変重く受け止めている。信頼を回復するためにできることは全てやっていく」と述べた。
 7月の問題発覚以降、客離れが進み、8月に既存店売上高が前年同月比で25・1%減になるなど大幅な減収が損益を圧迫。中国製鶏肉の販売中止に伴う食材廃棄で特別損失を27億円計上するなど費用も増え、赤字幅が拡大した。
 その結果、営業損益は94億円、経常損益も107億円といずれも昭和48年以来の赤字に転落。売上高も2210億円と大きく減少する見込みだ。
 平成25年12月期は売上高が2604億円、営業利益が115億円、経常利益が102億円、最終利益が51億円と黒字を確保していた。

「マクドナルド」…世界的に売上急落

 外食の巨人マクドナルドが吹きすさぶ逆風にあえいでいる。最近の自然食志向や中国の食品会社の使用期限切れ鶏肉使用問題などで、世界的に売り上げが急落し、年間の販売見通しも暗転。さらにトップが交代した日本に続き米国部門責任者が事実上の引責辞任に追い込まれるなど、日米ともに経営体制が揺れ動く。危機感を強めるマクドも改革を急いでいるが、浮上のきっかけをつかめるか。
 アナリストが驚くほど、世界でマクドナルドを展開する米本社が先日発表した8月の販売概況は、世界の外食業界や市場関係者に衝撃を与えた。世界の既存店売上高は前年同月より3・7%減少し、減少幅は7月の2・5%減からも拡大。実に11年5カ月ぶりの急落となったのだ。
 地域別では、アジア太平洋・中東・アフリカが14・5%減と大苦戦し、本国の米国も2・8%減とふるわなかった。堅調だった欧州まで、米国との外交関係が悪化しているロシアでの一部店舗が営業停止した影響で0・7%減とマイナスに転じてしまった。
 日本の状況も深刻だ。日本マクドナルドホールディングスによると、8月の既存店売上高は25・1%減と、平成13年の株式上場以来、最大の落ち込みとなった。関係者によると、とくに土日など休日の集客の不振が目立ったという。今年上期の最終利益は前年同期比59%減の18億円と激減。6月まで上昇基調だった株価も、夏場に入ってから一転して低迷し、投資家も気をもむ展開が続く。
 逆にライバルのモスバーガーは業績も堅調で、ハンバーガー業界ではマクドの苦戦が際立っている。
 マクドの業績を直撃したのが、中国の使用期限切れ鶏肉使用問題だ。仕入れ先の食品会社の上海福喜食品が期限切れの鶏肉を使用していたため、中国はもちろん日本でも客足が遠のいたことが響いた。
 日本マクドナルドホールディングスも影響を見極めきれず、通期の業績予想を「未定」とする異例の事態に追い込まれている。さらに日本では、一部の商品で料金を過剰に徴収していたことも発覚し、批判にさらされている。
マクド米本社は8月、傘下の米国マクドナルドのジェフ・ストラットン社長が10月15日付で退任すると発表した。理由は明らかにされていないが、ストラットン氏は2012年12月に就任したばかり。2年もたたずに退任するのは、グループの屋台骨を支え、社員が仰ぎ見る米国トップとしては異例といえる。ただ米国部門は長く業績不振が続いており、「事実上の更迭」(アナリスト)との見方が市場では出ている。
 日本マクドナルドも昨年8月に原田泳幸氏が中核事業会社の社長兼CEO(最高経営責任者)を退任した。平成16年に社長に就任し、業績をV字回復させてきた原田氏だが、24年から2年連続の減収減益に転じた。今年3月には持ち株会社の社長も退いた。
 原田氏の後任には、元カナダ法人女性幹部のカサノバ氏が就いたが、そのカサノバ氏も社内外で評判が今ひとつ。中国の期限切れ食肉問題をめぐっては、即座に記者会見を開かず、中間決算発表会見で謝罪したが、「マクド自身も被害者であることを強調するような口ぶりが目立った」(業界関係者)ことで、印象を悪くした感がある。
 世界で事業展開するマクドの「総帥」である米本社のトンプソンCEOが2012年7月に就任してから、マクドの変調が鮮明になったとみる業界関係者も少なくない。マクドの株価を3倍近く引き上げるなどカリスマ的な手腕を発揮したスキナー前CEOと比較されるのは気の毒だが、それに比べてトンプソン氏の実績は物足りなさがどうしてもつきまとう。
 もっともマクドとトンプソン氏もただ手をこまねいているばかりではない。
 まず、足元の米国事業の立て直しに向け、ストラットン氏の後任の米国部門トップに元グループ会社社長のマイク・アンドレス氏を再び呼び寄せた。米メディアによると、アンドレス氏は、2010~12年に米中部地区の統括役として既存店売上高も来店客数も増加させた実績をもつ。
 そして、事業面ではレストランのブランドの再構築を進めている。消費者の自然食志向や健康志向を意識し、「ハッピーミール(日本ではハッピーセット)」に果物や野菜を積極的に取り入れたり、先日は米食品大手クラフトと提携して小売りコーヒー市場に参入することを明らかにした。
 ただ、マクドを取り巻く市場と競争環境は依然厳しい。米バーガーキングは8月、カナダのドーナツ店大手ティム・ホートンズの買収に向けて交渉に入ったと発表した。実現すれば世界3位のファストフードチェーンが誕生することになり、マクドにも手ごわい存在となりそうだ。
 コーヒー市場参入も、これまではなんとか棲み分けていた米スターバックスや米ダンキン・ドーナツといよいよ“ガチンコ勝負”をマクドが迫られることを意味している。
 日本市場でも、あるアナリストは「消費者の嗜好(しこう)をつかみきれず、マーケティングで試行錯誤している」と指摘する。100円マックなど低価格商品で客足を伸ばし、高額商品の販促で客単価を引き上げる従来の戦略からいかに転換し、顧客の満足度を高められるかがカギだが、マクドの視界はまだ不明瞭だ。