イメージ 1

5月23日の急落以来、日経平均株価は不安定な相場展開になっている。専門家の間では、アベノミクスへの期待が先行していた株高の限界、という見方が多いが、国内よりも米国要因を重視する。

FRB議長発言で下落
イメージ 2

 2008年9月15日のリーマン・ショック直前からこの5月末までの各月の米国のマネタリーベース(MB、中央銀行によるマネー発行量)残高と、米国の代表的な株価指数「S&P500」の推移を追っている。すると一目瞭然、米株価はFRB(連邦準備制度理事会)がカネを大量かつ継続的に刷る量的緩和(QE)政策とほぼ連動して上昇してきたのだ。QEは住宅抵当証券や国債などの資産を買い入れ、資金を金融機関に流し込むやり方をとり、第1弾(QE1、09年3月から10年3月まで)、第2弾(QE2、10年11月から11年6月)、そして昨年9月13日に始まった現在の第3弾(QE3)に分かれる。

 グラフをよく見ると、QEの中断期、またはMBが伸びていない時期には株価が下落しがちで、QEが再開されるか、MBが増え出すと株価は再上昇していることが分かる。一般的には、株価は実体景気動向や企業収益に連動すると解釈されるが、リーマン後の米株価はFRBによるドル資金供給量によって変動する。言い換えると、米株価は「金融相場」、あるいは「QE相場」である。FRBによるドル供給という輸血が細ると、たちまち株式市場というボディーは元気をなくしてしまう。

現に、米国時間5月22日にFRBのバーナンキ議長が議会証言で「労働市場の見通しが実質的かつ持続的に改善すれば、FOMC(連邦公開市場委員会=FRBの政策決定機関)は資産買い入れペースを緩やかに縮小していく」と述べた途端、S&P500は下落し、日経平均を巻き込んだ。バーナンキ議長はQE3の縮小、打ち切りについては極めて慎重な言い回しに努め、「われわれは経済動向を見極め、(資産の)買い入れを拡大することも縮小することも可能にしていく」(ロイター電から)とし、場合によっては一層の量的拡大もありうると示唆した。だが、市場参加者はFRBがQEの縮小の可能性を探っていると解釈した。FRB内部では、QEを打ち切るという「出口戦略を考えるべきだ」との声が強まっているからで、ウォール街では顧客に対し、年末までにQE3が打ち切られると、警告されている。
 バーナンキ議長としても、株式市場が輸血、つまりQEなしで自立できるかどうか、探る意図もあって「QE縮小の可能性」を口にしたのだろう。しかし、その結果は、市場の弱気を刺激し、QE依存症ぶりをさらけ出した。

 考えてみれば奇妙である。FRBがQEをやめるか縮小するきっかけは、雇用情勢など実体景気の好転である。すでにQEによる実質金利の低下もあって住宅市場は底を打ち、株価上昇や「シェール・オイル&ガス」の開発ブームを受けて民間設備投資も回復基調にある。失業率まで改善すれば、景気回復はいよいよ本物というわけで、教科書通り株価が上昇軌道に乗っておかしくない。
 日本にとってやっかいなのは、米株式市場の不安がたちまち日本株に伝染することだ。日本株の相場は短期的には米株価と円の対ドル相場によって決まるというメカニズムを、本欄では以前から指摘している。日本株の売買総額の5割以上は外国人投資家によって占められ、外国人投資家の本拠はウォール街である。ウォール街の投資ファンドは米株安、円高で日本株を売る自動売買プログラムを作動させている。その結果、日経平均が下がり、円高となり、さらに株が売られるという悪循環が生じている。

 だが、あわてる必要はないはずだ。ヘッジファンドなど投資ファンドは投機の材料を見つけては、相場を乱高下させて収益を稼ぐ。その材料は主に、米国のQE政策への「読み」であり、その予想を導くのが米雇用統計などの指標である。米国の実体景気がしっかりとした足取りで拡大していくことが確実になれば、QE相場は実体景気相場へと転換するだろう。逆に、雇用情勢の改善がはかばかしくなければ、バーナンキ議長はQE3を継続するに違いないから、米株価は従来のように上昇する可能性が高い。
 要するに、今の米株価はQEと米実体景気の双方の要因を市場が消化する過渡期なのであり、大波乱の前兆でも何でもない。日本としては、アベノミクスをブレずに粛々として実行し、国内要因でみずからの株価を形成していけるようにすればよいだけだ。(産経新聞)