秘録 森羅家軍記 ~俺の屍を越えてゆけforPSP プレイ記録~

秘録 森羅家軍記 ~俺の屍を越えてゆけforPSP プレイ記録~

俺の屍を越えてゆけ for PSPのプレイ日記・情報など自由気ままに書き連ね中。
※全般的にネタバレ注意!情報系特に要注意!
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最終章 ← 大江裏ノ乱・朝ノ刻






語り部は、こう語りたかっただろう。


『人生は常に余計なものでいっぱいだ。その余計をどうするのかは自分次第。使うも捨てるも自分次第。

   そんな常に余計なものでいっぱいだからこそ、人間は自分の意思で、好きな生き方を選べるんだよ』



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「“焔金剛変”で己の限界を解放した映さんが―――




たった今開いた“黒鏡”で太照天様を映し取れば―――全て、終わる」





























映は、動かなかった。

いや、動かなかったということはない。


正鵠を射るために言い換えるなら。

動かなかったのではなく――――――






























術式を成立させるところまで動いたところで、彼女は戦闘の構えを崩した。































「『にくし』『みこそ』『のろい』――――か」


意味もわからなげに、呟いた。


「成程な。つまんねえ。戦いがじゃねえ、最強ってのは実につまんねえ。対峙する相手がいなけりゃ、対峙される危険もねえし、対峙する馬鹿も出ねえってもんだ。むしろ対峙されたけりゃ手加減するしかねえ。厄介だ。実に厄介。厄介極まりねえ。これだから最強ってのは嫌なんだよな。手応えを感じることもできねえまま手加減して接待してやんなきゃなんねえ。相手にいくら敬意を抱いてようと相手に対して敵意を剥き出しにしなかろうと相手がどれだけ優しかろうと相手がどんなに意地汚かろうと。それは自分に向かってこない弱さという弱さ。それは相手の弱きが罪か、弱気が罪か。それとも自分の強きが罰で強気が罰か。だったらもう面白えことなんてねえだろうが――――――」


意味もわかりたくなかったように、呟いた。





























「あんたの見ていた“景色”――――あたしでも、つまんねえよ」
































映の額の呪珠は、弾け飛んだ。


確かに、戦いは終わった。

伊吹の想定通り、終わった。


だが、それはあまりにも呆気ない幕切れだった。




映の呟いた言葉。

にくし みこそ のろい。

昼から、夜から、深夜から、散りばめられていたもの。


憎しみこそ呪い。






「なっ・・・・・・!?」

「えっ・・・?」

《―――――何が起きた?》


四方から驚きの声が上がる。


映の身体は、額の呪珠が弾け飛んでも微動だにしなかった。

本人は呪珠が弾けた事は理解しているようだ。

同時に―――――



昼子の内情までも、理解しているようだった。





「つまんねえからこそ、アンタはあたしらに望んだんだな」


静かに放つ。そして振り向く。


「四宮の一族の皆さんよお、あたしが何言ってるか知りたけりゃ“白鏡”であたしを映し取ってみな」



倫がその言葉を受け取り、

「莫迦な!あれほど太照天殿を倒すとの意気込みが人一倍だったお前に一体何が!?」

と慌てたように白鏡を詠唱し、名前通りに映を映し取った。


白鏡で映を映し取った直後のその表情は、とても冷めたようなもの、夢から覚めたようなものに変化した。

「―――――・・・力を持ちすぎても、面白くは、ない・・・そういう、ことか」


同時に、倫の額の呪珠も弾け飛んだ。

あれほど頑なに、どう足掻いても壊れたり外れたり潰れたり出来なかった緑色の呪いの証。

それが、映に続いて、倫のものまで、いとも簡単に弾け飛んだ。




「なあ、倫ちゃん」

「よーくわかった。確かにお前があれこれ呟いた通りだ。つまらないよ、確かに全くつまらない」


そこまで話したところで、昼子にかかっていたくららの効力は切れた。

パッと目を覚ました昼子は、自らの前で仁王立ちする映と倫を見て、ようやく胸を撫で下ろした。



「ようやく――――己の真の解答を、導き出しましたか」



その様相を見ていた稲光部隊二名・雷光部隊四名。

実体具現した黄川人と、上空で眺めたままの四柱は、何故か微笑んでいた。



「し、真の解答とは、何だ!?どうしたと言うのですかお二方!?」

「昼子嬢の言った通りだ、藤吾―――白鏡が使えない一族はいないだろ、知りたきゃあたしを映し取れよ」


その言葉の応酬を機に、残った六名は一気に白鏡を詠唱し、全員が全員映をそのまま映し取る。

理解したくもなかっただろう思惑を全て理解するまでに、時間など必要なかった。


写し取るまで疑問に悩んでいた、映と倫の話し方。

移し取るまで疑問に刻んでいた、映と倫のあの気力。

映し取るまで疑問に思っていた、映と倫の悟り具合。


映し取り終えた瞬間、理解したくもなかったはずの思惑を強制的に思い惑ってしまい、

理解したくもなかったはずの思想を強制的に想い描いてしまい、

理解したくもなかったはずの意志を強制的に成し遂げてしまい、

理解したくもなかったはずの神意を強制的に昼子から受け取ってしまった。




《―――終わったな、とうとう》

《ああ、もう全員、理解し終わっただろうな。俺たちがそれを知ったのは、彼女の失踪前だったが》


既に知っていた。

既に知った後だった。

既に既に知り尽くした。


《聞けば何とも拍子抜け、そらあ俺の娘っ子がああも静かに抜けた声を上げるのも無理ねえやな》

《ですが、これで私たちの娘と孫は呪いを吹き飛ばしました。もはや、ここにいる理由は――――》




「勝手に終わらせないでくださいな」

「あんたたちにも、まだまだ歩むべき道はあるしね」




昼子と朱星がひとつがひとつお互いの指を振り手を振り腕を振るう。

すると上空の彼らが一斉に姿を消して。


「あだっ!」 「いっ!つ・・・」 「うおわっ!」 「おおっ!・・・と」


八名の後ろから、実体である誰かの声が、四人分聞こえる。

そのうちの三人が、お尻から落ちてきたかのように痛みと戦う。


「受身も取れないで何ですかアナタたちは、見っとも無い・・・・・・ん?受身・・・?」



「手伝いの報酬っていやあ簡単なもんだけど、まあそんなことで」

「この愚弟のおかげで彼方たちは次世代へ紡ぐために死んだのでしょう?ならばその償いはしませんと」


気がつけば肉体がある。気がつけば身体がある。気がつけば存在している。

まるで神様の力だ。


いや、神様であるのだけれども。


しかし、氏神であった四柱は、気がつけば全員の背後に、等身大ありのままの姿で四人として存在した。

《持黒天四宮》であった水の氏神は、四宮 銀兵に。

《伏竜四宮》であった火の氏神は、四宮 綴に。

《四宮鎮樹》であった土の氏神は、四宮 紫苑に。

そして、《四宮八千矛》であった風の氏神は、かつての十八代“志吹”を継いでいた、四宮 尽に。



それぞれが、等身大の姿で、存在した。

しかし―――――かつて額に宿されていた、忌々しい緑の呪珠のみは、存在しなかった。




「これ、本気かよ・・・」

銀兵は未だ信じられないように呟く。

額にも手をやってなお、そう呟く。



「まさか、いやまさかだよな・・・生きて、るのか?」

「・・・・・・なあ朱星、ひとつ聞きたいことがある」

紫苑が自分の存在を疑うように呟く中、綴は朱星ノ皇子に一言投げる。


「何だよ?言っとくけどもう一度天界に来たいなら今から死ぬ他ねーぜ?」

「どうでもいいわ」

あっさりと一蹴。

息を整えて。



「もしかして、俺たちがその《力》を使ってしまってたら―――

今ここに存在することは、叶わなかったんじゃねーのか?」




朱星ノ皇子は、その言葉を受け入れ、その問いを受け入れ、優しく返した。



「僕の知ったこっちゃないね」


それだけで止まるかと思われたが、しかし彼は続ける。

「―――ったく、聡明なところがうぜえったらねえよ、あんたたちさあ。

   別に僕が力を与えたところで、僕がそれを持ってたところで、早々にあんたたちを

   天界から追い出したかっただけだって言ったら、満足するのかよ?

   しねえだろ?むしろ力が何だってんだよ。それを知りたいんなら、こっちにいる娘や孫に聞けよ」


ぶっきらぼうに、しかし的確に、続け、返し、突いた。

そんな乱暴な言葉とは裏腹に、朱星ノ皇子は笑っていた。


これ以上なく清々しい。

これ以上なく輝かしい。

これ以上なく神々しい。


それが本来の朱星ノ皇子の、屈託のない笑顔だったのだろう。



「くっだらねえ事にもう、頭使わなくていいんだ。巻き込んで悪かった。

   ただ、僕らは気づいて欲しかっただけなのかも知んなかったなあ―――と、姉さんを見て思うよ」

「よく言いますね、愚弟の癖に。しかし―――下らない事に巻き込んでしまったことは、

   私からも謝罪いたします。そして、彼女たちにおどけて見せたあの態度にも、お詫びの一言を」


本来の朱星ノ皇子と、本来の太照天 昼子。

それは壮絶な姉弟喧嘩で始まり、朱点童子という肩書きを背負った者同士の対立であり、

第三勢力をどちらに取り込むかまでも競り合ったりした、あの醜い戦渦で見た姿では、決してなかった。


お互いが屈託のない笑顔であるのだろう表情を浮かべながら、

敵対していた第三勢力にすべてを感謝しているような、

今まで敵として立ちはだかっていたのが嘘のような、

虚構や虚像や虚空や虚無など物語の冒頭からして存在しなかったかのような、



人間の姉弟と何ら変わりのない、本来の姉弟の姿だった。





「あたしは―――あたしたちは、こう思うかな」






「私たちが犠牲を払ったものは帰っては来ないと、冷酷なつもりでいた―――けれど」






「犠牲を払ったんじゃない、犠牲を払わされたから―――それを返して欲しかっただけだったのかも」






「憎しみなんて、始めからなかったんですよ―――きっと、みんな、憎かったのではなく、寂しかった」






稲光部隊と称されていた、かの策で戦死を選んだ四人の男たちの、愛娘たち。

真実のすべてを、映を始め白鏡を詠唱して映し取った映と昼子の内情すべてを理解した彼女たち。

その言葉を経て振り向いた愛娘たちの瞳には、今からでも流れんばかりに溢れた涙を溜め込んでいた。

鳳凰の稲光も、風神の稲光も、雷神の稲光も、青天の稲光も。

映も、倫も、栞も、伊吹も。


雷光部隊と称していた、昼子に何度も挑んでは返り討たれた、伝説の稲光の眼光を秘めた子供たち。

真実のすべてを、白鏡を映に詠唱して映し取った彼女と昼子の内情すべてを理解した彼らと彼女ら。

すべてを理解して、安堵した雰囲気と共に、振り向いて。

真紅の雷光も、紺碧の雷光も、黄土の雷光も、青空の稲光も。

望も、縁も、甜果も、藤吾も。
































運命に縛られなくていいんだよ。


お前たちが背負ってる柵を今すぐ置いて、走っていけよ。


生温くない兄弟愛を、意地汚くない親子愛を、醜くない親族愛を、底辺にすら存在しない家族愛を、


国や世界どこを見渡してもたった一本しかないお前たちの切れない、千切れない絆を。



今すぐ見せつけてやれよ。



今すぐ突きつけてやれよ。



今すぐ飛びついてやれよ。



今すぐ泣きついてやれよ。




























いつまでも家族がお前を待ってるとは、限らねえんだからな――――――――――
































「父上ええっ!」 「父様あああ!」 「父さん・・・っ!」 「お父様ぁー!」

「祖父様・・・!」 「祖父殿!」 「お爺様あー!」 「祖父上さまあっ!」



八人とも、飛びつきに行った。

各々の心の中、心の底、精神の中、精神の底。

各々の喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、その他諸々持っている感情。


全てが等身大に戻ったわけではなくとも、今はただ、ただただ、喜び泣いた。




六回、弾ける音がした。





映と倫の額にあったそれは既に弾け飛んでいる。

甜果のそれが弾け、望のそれが弾け、甜果のそれが弾け、藤吾のそれが弾け、

栞のそれが弾け、そして――――最後の当主“志吹”を名乗っていた、伊吹のそれが弾けた。


紫苑は愛おしく二人に腕を回し、綴は奨励するように二人の頭を撫で、銀兵はあやすように二人の肩を抱き、

尽は苦しみを解き解くように二人の腰を引き寄せた。



全員の額には、かつての忌々しく艶めく緑色を醸し出していたあの呪いの珠は、存在しない。





「ようやく―――――解き放たせることができた」

彼女は言う。

「何から?」

彼は言う。

「一族の使命、血族の柵、個人の怨嗟、全ての憎悪、全ての怨恨、全ての悪循環」

彼女は言う。

「おいおい、忘れちゃだめなやつが一個あるじゃん」

彼は言う。

《「おや、言ってください、朱星」》

彼女は言う。

《「僕ら―――いや、昼子率いる神々がこれ以上出張ることはない―――――つまり、神々からの解放」》

彼は言う。

《「成程。さすがは我が弟らしい」》

昼子は言った。

《「けど、それは姉貴らしいってことでもあるよな」》

朱星は言った。

《もう、あの子たちには、我らは必要ない。そして、全ての螺旋からも解き放たれた以上―――》

《ここから先は、僕たちの管轄外だ――――もちろん、僕らの仲直りも含めてね》

二人は行こうとした。





























「待ちなさい、二柱方」




尽は止めた。二柱を。




「―――――いや、失礼。待って頂けますか、と言った方が、よかったですね」

「構いませんよ。私と彼方たちとの、仲ではありませんか」

「もう、会う事はないのでしょうか」

「ないだろうね。僕と君たちとの、仲だったとしてもね」

「―――では、私どもから言葉があります」



十二人が、立派な表情で上空の昼子と朱星を、見上げていた。

あの凛とした表情を、全員が持って、見上げていた。




「『憎しみこそ呪い』の、『にくし』―――この三文字にはこのような意味が込められていたのですな」

「部隊が二組、世代は二代。家族は九人、味方も九人。稲光が四本、雷光も四本―――

   二と九と四が、いくつも重なっていた、最初の鏡写しの目覚めから存在した三つの数字」





部隊が二組、世代は二代。

稲光部隊と雷光部隊、母親世代と子供世代。

家族は九人、味方も九人。

当主の伊吹と子の藤吾、栞と子の甜果、倫と子の縁、映と子の望、家族はイツ花、味方は黄川人。

稲光が四本、雷光も四本。

青天に風神に雷神に鳳凰。青空に紺碧に黄土に真紅。

二が二つ重なり、九が九人存在し、四が四本嘶いた。

憎しみがまだ残っていた時から、憎しみを失った今に至るまでの、紛う事なき真実の一端。







「そして、次の『みこそ』には―――母殿らが相対したあの時の、昼子様の言葉にあった」

「それが、私たちが貴女に負けた、初めて負けた時の――――あの言葉」





痛み―――人としての痛みをわからない私と、人としての痛みを理解できる貴女達―――――

あの子もそう。脱け殻の癖して、家事だけ得意げに進んでやって、ヘラヘラと笑顔ばっかり―――――

皆そうやって――――私の持っていないものばかりを見せびらかしてくれる―――――







いたみ

あのこ

みなそ



痛みを知れ。あの子たちはもがいている。私が解放を見做そうと望むだけでは足りない。

痛みがわかる。あの子たちも同じくもがいていた。私が解放を見做そうと望むだけの辛さを知った。

痛みはいつだってそこにある。あの子たちもいつだってそこにいる。皆そうやって生きていく。








「飄々と冷酷を装っておいて、三文字目に三つの繋ぎ文字を仕込んでいた―――」

「そして、最後の『のろい』は、私たちが二度目の敗北を期する時、いみじくも同じ仕込みをした――――」





ふふ、その程度の策略で、この太照天 昼子を出し抜こうなんて、年どころか質でも―――――

貴女方が不安がろうと、『策略を一つでも成功させれば次に繋がりやすい』という意思を―――――

太照天 昼子をいいように手玉に取ろうなんて―――――――甘く見るにも程がある―――――







ふふ、その程度の

貴女方が不安がろ

太照天昼子をいい


ふふ、その程度のことがわからないなんて、神様も愚かですね。

貴女方が不安がろうとすることなんて、考えればすぐわかったのに。

太照天 昼子をいいように使わせたのは、他でもない太照天 昼子だったでしょうが。


ふふ、その程度のことを今理解できたところで、神様も人と同様に愚かだと同時に痛感するだけですよ。

貴女方が不安がろうと思っていただなんて、ずっと見ていたんだからわからなかったはずがないのに。

太照天 昼子をいいように利用してもらっても、太照天 昼子の性格が良かったなんて自分では言えない。








「それに気付かない私たちに焦りを感じて、貴女様は私たちの推参を待って尚、薙ぎ払った―――」

「更に、あたしらの十二世代に渡る最後の切り札すらも看破しながら、敢えて朱星に寝かされた――――」













あっちこっち油断ばっかだよな、《お姫様》

くっ―――しかし、この程度何だというのです

“この程度”ね。まあいいや、ちょっと寝なよ


油断していたわけじゃあないけど、それを油断と言われても反論できません。

この程度が何かなんて、それこそこの程度のことでしたよね。

ちょっと寝たら事が終わってたことすら、既に終わっておくべきことだったはずですし。


油断することすら甚だしい。

この程度と蔑むなんて汚らしい。

寝てたら終わったなんて都合のいい。





それなのに――――――











「聡明で壮麗な娘たちの言葉は痛いほど伝わったし、お前さんの心がどれだけの熱を宿したかも知っている」

「弟の所為で自分の立場を危ぶまれた?違うな、弟のお陰で自分という立場を確立できたんだよな」





なぜ、人のくせに私の心を絆していくのか。

なぜ、人間のくせに神様の心を解いていくのか。

なぜ、人間である彼方たちが神様である私たちの心を癒していくのか。


弟の朱星は、わかっていたんですね。

私が私でいられるためには、一度でも喧嘩というものを知っておかなければならなかった、と。

それが、幾百の神々を葬り、幾十の神々を酷使していた、非情だった私に対しての愛情だった、と。











「だから、もう――――――天界で人知れず、泣くのはやめろよ」

「貴女の心はもう、痛いほど理解した――――――だからこそ、我々はこのように言葉を贈りましょう」




















































何の柵もなく、好き放題に甘えろ。




階級とか階位とか、そんなものはどうでもいい。




年があるかなんて知らないが、年下だろうが年上だろうが構いやしない。




我慢もしなくていいし、遠慮もしなくていい。




身寄りがないわけじゃないだろう?親族がいないわけじゃないだろう?




太照天 夕子様だって、隣の朱星ノ皇子様だって、貴女様のかけがえのない存在なんだ。




代わりの訊かない存在なんだ、替わりの効かない存在なんだ。




だったら、その存在がそこに存在する限り、精一杯甘えて甘えて甘え尽くせ。




一切の躊躇も必要ない。一切の躊躇いも必要ない。




瞬間でも迷う必要なんてない、刹那でも惑う必要なんてない。




それでも足りないと感じたならば、それでも足らないと欲したならば。




無関係だとか無関連だとか無感覚だとか無感情だとかそんなものは無である必要はない。




いつでも人の世に降りて、いつでも甘えてくればいいんです。


































そして、十八代の元当主と、十九代の最後の当主は、彼の頂点に立つ神々しい存在に向けて放った。



「貴女様ら姉弟の大喧嘩に巻き込まれたことなど、我々は全て水に流しておりますから――――――」

「貴女様ら姉弟との縁が続いていると信じて、またいつか、きっと、お会いしましょう――――――」


そこにいる、全ての『人間』は、頷くように頭を縦に動かした。

いつか、きっと、お会いしましょう。

近い将来でもいい。遠い未来でもいい。

いつかきっと―――――必ず、お会いしましょう。

































《―――――――ありがとう》


潤んだ声で、そこにいる全ての『人間』に、感謝を述べた。


《――――――ありがとう。私は――私は、彼方たちが第三の朱点童子だと知って、利用したのに――》


その潤んだ声はより一層潤んでいく。


《利用して、利用して、利用して、利用し尽くしてもなお利用し尽くして、それでもなお――――》


その声は、もう感謝しか含まれていない。


《それでもなお――――――――――!》


謝罪なんて、既に彼女を許した存在に向けても、もう意味はない。


《許してくれて――――――ありがとう!!》


彼女は、とうとう涙を流した。


《優しくいてくれて――――全てを受け入れてくれて――――――ありがとうッ!!》


全ての想いを、涙と共に放出した。


《また――――――――――また、お会いしましょう―――――!!》


朱星の《やれやれ》という表情が、垣間見えた気がした。




神々しいまま、二柱の姿は、天高く昇り、雲を突き抜け、天空遥か上まで高く昇り。


全ては、終わった。


悪しき連鎖の全てが、全て終わった。














それから、あの煌びやかに装飾された朱点閣は、諸々と姿を消した。


鏡映しだった世界から自然と抜けて、気がつけば一族は自らの屋敷に戻っていた。

その屋敷の戸を開ければ、一人の召使いのような女性が飛び込んできた。
































「おかえりなさいませ、当主御一行様!」

































人は最期を人で終わる。


一族は最期を人外のままで終わったものもいる。


だが、最終的に一族も人としての最期を、全うできたのだろう。





一族の中でも最も名高く功績を挙げた四色の稲光、戻ってきた親、自らが授かった子、

それぞれ、皆が全員で、一軒の屋敷で普通の生活を過ごしていった。


そして呪いから解放された各々の年齢は、現在の心身に相応しい、人間らしい年齢に変化した。

子の年齢は、元服前後の十歳~十五歳となり。

親の年齢は、二十九歳~三十五歳となり。


稲光世代の年齢は、二十七歳~三十二歳となり。


各々が人間として、人間らしい年齢を重ねていき。

己のやりたい事を存分に行ない、己のやるべき事を存分にこなし。


人間として受けた生として、人間として死するまで、かの一族は人と交わりながら子々孫々を成した。




親の年齢が若いのは、若くして死した当時の年齢そのままで蘇生したゆえの若さである。

それは、姉である彼女と、弟である彼の、最後のお詫びだったのかもしれない。





四色の稲光は、伝説として、一族の誰かがこれを綴った。

鬼にも負けず、神にも負けず、人にも負けない、最強にして最後の人ならざる人だったと。


そして、四宮 志吹の壮絶な魑魅魍魎綺譚も、同じくして一族の誰かがこれを綴った。

十九代に渡る壮絶な人生と連鎖の物語。






四宮という名の一族の歴史は、一先ずの終わりを告げた。












































そして、千年―――――――時は、満ちた。











































「へえ、栞さんテストで80点より下取ったことないんすねー」

「学生時代の事を掘り返すのはやめてよ。恥ずかしいから」

「でも映ちゃん、貴女も似たようなものじゃないかしら?それほど頑張ってるようですし」

「しかし、君はこんなところで油を売っていていいのかい?もうすぐ昼休み終わるんだろう?」




























約束は守られ、神と人の血を引く子たちが、再び地上に生まれた。






























「うわああっ!やっべー!皆勤賞狙ってるんすよあたし!遅れっちまうー!」

「ほらほら急げ急げー。君の分のお茶代は私が持っておいてあげるから」

「お優しいんですねえ、倫さん」

「あ、映ちゃん、途中で甜果にあったら伝えておいて?『お父さんが今日、帰ってくる』って」
































しかし、四色の稲光と呼ばれた彼女たちは、未だ自分の真の力を知らず――――――































「わっかりましたー!」


「・・・ふう。頭いいのにどこか抜けてるのね」

「はっはっは。栞さんは若いのにしっかりしすぎだよ」

「でも、そうね―――私たち、どこかで共に―――――」

































「志の吹くままに―――――目的を同じくして動いてたかも、知れませんね」



























































《―――――――頑張っているみたいで、よかった》










































































――――――――――その使命にも、目覚めてはいない。






















































































































『四色の稲光』地獄巡り篇三項~大江裏ノ乱篇四項ノチ完結史。





【新タナル刻、刻マレリ】――――――俺ノ屍ヲ越エテユケ――――――!











《ご愛読、ありがとうございました》

《またどこかで会えたら、嬉しいな》


































『駒沢公園の皆様ァ! お騒がせェいたしましたァァ!!』



































《 了 》